片翼を君にあげる①

「ノゾミちゃんと、最近親しいの……?」

「え?」

「!……あ、違うの!っ、ごめん……なさい。そ、そうじゃ……なくて、……その…………ッ」

「……」

ーーこれは、明らかにノゾミさんとの事(さっきの事)を気にしてる!!

恋愛経験がない俺でも、このレノアの反応にはすぐに分かった。言い辛そうに言葉を詰まらせて、伏し目がちな目は僅かに潤んでいる。
今まで寂しい想いもいっぱいさせた。ハッキリしない俺の気持ちに彼女が不安になるのも仕方ない。

伝えなくては、今度こそーー……。

「レノア、あのーー……っ!」

レノアに自分の決意を伝えようと口を開きかけた。が、その瞬間俺の視野には角から曲がって来て、そのままこちらに向かって来るヴィンセント様の姿が映った。
慌てて胸に片手を当てて頭を下げると、その俺の様子にレノアもヴィンセント様の存在に気付いて、手に持っていた靴を下に置くとそそくさと履く。
ヴィンセント様は俺達の側までくると、レノアのお転婆な行動を叱るように軽く頭をポンポンと撫でていた。

……挨拶を済ませて、下がらなくては。

身分の高い女性が婚約者や夫でない男と二人きりで過ごすなんて、言語道断。ましてや、娘が男と居る場を目撃して許す父親などいないであろう。
今後の為にも、何よりレノアの為にヴィンセント様に悪い印象を与える訳にはいかない。

「ヴィンセント様、本日は……」
「ーー良い」

ーーえ、っ?

挨拶を済ませて帰ろう。
そう思った俺の言葉を遮って、"やめなさい"と言うように胸の辺りまで上げた掌を見せるヴィンセント様。思わず視線を向けると、目に映るのは彼の笑顔。そして……。

「今日の事で御礼を述べるのはこちらの方だ。君の提案がなかったら、私は家も、娘も、大事なものを全て失っていたかも知れない。本当に、ありがとう」

「!っ、や、やめて下さいッ……!」

まさかのお礼の言葉と、俺に向かって頭を下げるヴィンセント様。その姿に落ち着いていられる筈がない。
「お顔を上げて下さい、お願いしますっ」とワタワタと顔を覗き込みながら声を掛けると、そんな俺を見てヴィンセント様は「ハハッ」と笑った。
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