片翼を君にあげる①
8月7日、今日は私達が住む港街の花火大会。
大きな打ち上げ花火が夜空に上がるまでは、後1時間位だ。
中央にある広場はもちろん、そこへ向かうまでに進む商店街の通りも、今日は色んな出店が並んでいて賑わっている。
この街で産まれてから、ずっと毎年来ているお祭り。
幼い頃は私達の家族とツバサの家族と。ある年はレノア達友達と……。そして去年は、私とライとツバサの三人で来た。
でも、今年は一人。賑やかな祭りの中を特におめかしもしないで私服で歩いている。涼しさと動きやすさ優先のTシャツにショートパンツ姿で。
せっかくだから浴衣を着ようかとも悩んだけど……。
「ーーどうせ、褒めてくれる相手もいないしなぁ」
そんな愚痴を溢しながら、出店をチラチラと見ながら特に宛もなく歩く。
本当は今日、ここへはツバサと一緒に来る筈だった。
彼の誕生日を祝ってあげた際に、そのお返しに「じゃ、一緒に花火大会行こ!」って誘ったんだよね。
でも、あれから1か月の間にツバサの状況がガラッと変わっちゃって、その約束は自然消滅。きっと彼は今も、1日でも早く白金バッジの夢の配達人になる為に何処かで頑張ってるんだ。
『もう一度、白金バッジを目指す事にした。
色々ありがとう。頑張る!』
夏休みに入ってすぐ、私とライのポケ電にツバサはそう一通だけメッセージをくれた。
そっか。
全部、いい方向に動いたんだーー。
そう安心したら、あれよあれよと言う間に……週刊誌を見てビックリしたよ。
ツバサがアッシュトゥーナ家と……。ううん、この国の未来を懸けて、ドルゴア王国のサリウス様と勝負なんて……、……。
「……あ〜あ。
ホント、あっという間に飛び立っちゃうんだもんなぁ〜」
ツバサの凄さは、知っているつもりだった。
もう一度飛び立つキッカケさえあれば、彼はすぐに自分の手の届かない場所まで行ってしまうと分かっていた。……けど、やっぱり、寂しい。
ツバサの悲しそうな姿を見たくない。
彼には白金バッジの夢の配達人になってほしいし、誰よりも幸せになってほしい。
だから、そうなるように出来る限りの事を私はしてあげたかった。その筈、だったのに……。
「そう、なったのに……。何で、寂しいんだろうな」
苦笑いと共にポツリと吐いた呟きは、人混みに紛れて有り難い。