片翼を君にあげる①
「よう、兄ちゃん!やっていかない?
その子も景品気に入ってるみたいだし、可愛い彼女の為に取ってやりなよ〜!」
っ〜〜……おじさん!
やめてやめてやめて〜〜ッ!!
この港街に住む人は私とツバサが仲の良い幼馴染みだと知っている人が多い。
しかし。運悪く、どうやらこの店主さんは祭りの為に今日ここに来た人のようで、完全にカップルだと勘違いされて冷やかされてしまう。
普段なら良かったが平常心ではない今、私には笑って返す余裕がなかった。それにツバサも、そういう冗談をサラッと返せるような性格でない事を私は知っていたから……。
どうしようっ……。
このままじゃ、ますます気不味い雰囲気になっちゃう。
これはやましい気持ちを隠しながら、密かにデート気分に浸っていた自分への罰だと思った。
神様が決めたツバサと運命の糸で結ばれてるのはレノアで、"今日だけ"、"今だけ"、ってそんな束の間の時間さえ私には許されないのだ、と……。
でも。
そんな嫌な雰囲気を変えてくれるのは、ツバサの言葉と笑顔だった。
「ーーおっし!
取ってやるか〜可愛い姪っ子の為にな!」
その言葉は私をハッとさせるんじゃなくて、スッと私中に入ってきて、心を優しく包んでくれるようだった。それに……。
「え?姪っ子??」
「そう、姪っ子」
「ははっ、またまた〜!兄ちゃん冗談キツいね〜!」
驚いたのはツバサの対応。
以前の彼なら、こんな風に冷やかされた時に上手く交わせずにいた筈なのに……。
「いや、ホントなんだけど……。
ま、いいや。おじさん、一回ね」
「一回〜?兄ちゃん、一回じゃ無理だよ〜。
それに兄ちゃん片目が……」
「余裕余裕〜。俺、こういうの大得意だから!」
耳に届くツバサと店主さんの会話に、いつの間にか落ち着いた私は顔を上げてそのやり取りを見ていた。
お金を払って、射的用の銃を手に取ると弾を銃口に詰めるツバサ。瞬きもせず見つめていると、視線に気付いた彼が私を見て、首を少し傾けながら意地悪そうに微笑む。
お祖父ちゃんにそっくりな、その仕草と表情ーー。
それを見て、ツバサが店主さんへの冷やかしの言葉に一切動じなかった理由が分かった。
私が想像していたよりもずっと、彼が大人になっていたからだ。
……参ったなぁ。
また一段と、カッコ良いや。
素直にそう感じた。
でも、まるでツバサの冷静さが伝わったかのように私も冷静で……。自然と、笑顔を返していた。