片翼を君にあげる①

最初に異変に気付いたのは、ツバサが3歳の時。
遊ぶ為に広場に行こう、と誘うとツバサが首を振って言った。

『いっぱいこえがきこえるからやだ』って。

いっぱい声が聞こえる?
いつも行く中央広場には確かにたくさんの人が集まるから、そう言っているんだと思った。
この子はきっと騒がしい場所が苦手なんだと単純に思って、私は仕方なく自宅の建物の下にある敷地内でツバサと遊ぶ事にした。

すると今度は……。
『たすけてっていってる』

そう言って、辺りをキョロキョロ見渡すツバサ。
でも私には何も聞こえなくて「何も聞こえないよ?」って返すと……。
『にゃーがたすけてっていってるの!』と言って駆け出した。
私が慌てて後を追うと、ツバサが足を止めた先の柵に潜ろうとした際に引っかかってしまったのか、猫が必死にもがいて助けを求めていたのだ。

私には何も聞こえなかった。

……いや。
この子は、きっとものすごく聴力が優れているんだ。
と、この時私は違和感を覚えながらもそう思ってた。


でも、その日を境にツバサはどんどん人混みを避けるようになって、家族で出掛けてもうずくまって自分の手で両耳を塞いでいた。
両親もおかしいと思いながらも、「この子はきっと人見知りなんだ」って、まだ……この時は思おうとしていた。
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