片翼を君にあげる①
……
…………そして案の定。
終わりの時間が近付いて来ても鬼が俺達を見付ける気配はなかった。
陽の傾きや辺りの薄暗さ、そして俺の中の体内時計がもうすぐ18時だと告げている。
「レノア、ゆっくり降りよう?」
普段あまり高い場所に登ったりしない人にとって、登る時よりも降りる時の方が恐怖も大変さも勝る事を知っていた俺はそう提案した。
でも、レノアは倉庫の上で膝を両腕で抱えたまま、俯いている顔を横に振った。
「……いや」
「レノア?」
「っ……帰りたくないッ」
ーー困ったな。
自分は同世代の子供達よりも身体能力に自信があった。けど、さすがに女の子を抱えてこの高さから降りるのは難しい。
何とかして説得しなくては、と僕はもう一度語りかけてみた。
「レノア、帰ろう?」
レノアが首を横に振る。
「そんなにかくれんぼ楽しかった?
なら、また次にかくれんぼやろうよ!」
レノアは首を横に振り続けた。
そして……。
「またすぐに会えるよ!だからさ……」
「ーー私はもう、ここには来られないのっ」
えっーー?
18時の鐘がゴーン、ゴーン……と鳴り響く中で、レノアが言った。
「お母様がっ……結婚するの。っ……そしたらッ、もう……みんなとは遊べなくなる、って……お母様が……っ」
涙声で、その呟きのような彼女の言葉は鐘の音に消されてしまいそうなのに……。俺には、何よりも心に響いた。