片翼を君にあげる①
***

「また一段と、お父様(ヴァロン様)に似てまいりましたね」

店に入って、兄が今日の為に仕立てて用意してくれたスーツに着替えると、その姿を見たシオンが言った。

「そっか?
……父さんほど、俺はカッコ良くないよ」

スーツなんて久々に着た。
最後に着たのは夢の配達人の任務の時だから、15歳の時。あの時はまだ身長も低くて、全然しっくりとこなかったのを思い出す。

普段着も良かったけど、スーツを着た父さんは更にカッコ良かった。本当に本当に、息子である俺から見ても素敵な男性だった。
そんな父に、少しでも近付けたのならば嬉しい。
父の事を思い出しながら鏡の前に立って、おかしいところがないか最終確認しているとシオンがスッとある物を差し出す。

「こちらをヒカル様よりお預かりしてまいりました。本日はどうか、こちらをお付け下さい」

「!っ……これ」

そのある物を見て、俺は驚く。
シオンの手で広げられた布の中から出て来たのは、腕時計。あの事故で奇跡的に無傷で焼け残った、父の腕時計だった。

「御守りだそうです。
きっとツバサ様に勇気を下さるでしょう、と」

「……。勇気、か」

俺はシオンから腕時計を受け取ると、暫く見つめて左腕に装着した。

この腕時計を俺に渡した兄の言いたい事は分かる。
"ちゃんと現実を受け止めろ"そういう事だ。
父さんの死から目を逸らそうとしてる俺。
そして、レノアに真実を伝えられず逃げ続けている俺に……。

今日という日が、果たして自分を変えてくれるのだろうか?

準備が整うと、俺はシオンの運転する車で前夜祭の会場へと向かった。

……
…………。
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