片翼を君にあげる①

ツバサ様から手紙の返事は一度もなく、情報誌からも次第にその名を見る事もなくなった。

「帰国したら、私ツバサに会いに行くわ!」

それでも、ツバサ様を想うレノアーノ様のお気持ちが変わる事はなかった。
何か事情があるのだと、彼が自分との約束を簡単に破る筈がない、と……。


そして、留学期間が終わり帰国したレノアーノ様はお(やしき)である事を知る。
一年前、ツバサ様のお父様が亡くなっていた事を。そしてその時期は、彼が夢の配達人を辞める少し前だという事を……。

「お母様っ……何故?っ……何故、ヴァロンさんが亡くなった事を教えてくれなかったのッ?!」

「……貴女には必要のない事だからです。レノアーノ、自分の身分と立場をわきまえなさい」

「!……必要、ない?ヴァロンさんの事が、必要ない事だと言うのっ?
お母様だって、ヴァロンさんとは友人だったのではないのですかっ?!」

ミネア様はツバサ様のお父様が亡くなった事も、それが理由で彼が夢の配達人を辞めたのだという事も知りながら、レノアーノ様の耳には入らないようにしていた。
地元ではそこそこ名の知れた会社の社長であろうと、アッシュトゥーナ家からしたらヴァロン様の死は取るに足らない存在。
また、それを理由に白金バッジを諦め、夢の配達人を辞めたツバサ様の事もまた……そういう、存在なのだ。

「っ……お母様なんて、大っ嫌いッ!!」

アッシュトゥーナ家の妻としての立場を、そして娘の為に心を鬼にしている母の気持ちを当時のレノアーノ様が理解出来る筈もなく、そのままお(やしき)を飛び出してしまわれた。
慌ててすぐに跡を追いかける私を見て、それ以外の者に命じてレノアーノ様を連れ戻すようにしなかったのは、決して口には出来ない母親(ミネア様)の優しさだったに違いない。
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