片翼を君にあげる①
そんな、何も持ってないクセに、変な意地だけ残っている事を情けなく思っている俺を察したのか、レノアが明るく振舞う。
「開けちゃお〜!」
しかし、パカッと蓋を開けて中身を見た彼女は驚いた表情をしてじっと凝視。瞬きもせずに、ただ中身を見つめていた。
中に入っているのは、ガラス細工で出来たブローチ。
スノードームのように星の砂を青いガラス玉に閉じ込めた、おそらく夜空をイメージして作られた物だ。
それは絶対に二十歳の、しかも身分の高い女性に贈っていい品物ではない。
ガラス細工ではなく、本物の宝石に囲まれた生活をする彼女にはおもちゃ同然だろう。
……おいおい。
ここは、「なにコレ〜!」って笑い飛ばすところだぞ?
俺は心の中でそう思った。
そうしてくれたら、俺も笑えた。
ああ、こいつはやっぱりもう俺の知ってる幼馴染じゃないんだ。って、諦める事が出来たんだ。
それなのに、……。
「……綺麗、っ……すごい、あの日の星空みたい!
ほらっ、覚えてる?昔、一緒に見たあの星空ッ……!」
それはまるで、心の底からの嬉しさの震えを全て乗せた声。
レノアの口から出たのは、俺が雑貨屋でそのブローチを見付けた時と、同じ気持ちだった。
この間バイトも辞めたしそんなに金がなくて、ハッキリ言って予算オーバーで……。でも、これ以外にあげたい物が見付からなくて、俺、財布の中身全部出して買ったんだ。
そんな俺を分かってんの?
それとも、無自覚?
それなら、相当だな。
女神じゃなくて、お前悪女だよ。
凶悪なのに、可愛くて、可愛くて……眩しい笑顔で、俺を見つめるんだな。
「どう?似合う?」
左胸にさっそく着けて、ウキウキと左右に揺らす身体と一緒に首を傾けながら尋ねてくる。
……やめてくれよ。
昔おやつを半分に割って渡した時と、同じ仕草をしないでくれ。
元々は甘い物が好きじゃなかったから、少しでも自分の食べる量を減らしたくて、ただ割ってレノアに渡していただけだった。
それなのに「ありがとう!」って、微笑ってくれたから、嬉しくて……。レノアと半分こする時だけは、苦手な甘い物も、美味しい気がしたんだ。
お前と、一緒だから……。