片翼を君にあげる①
「……綺麗だな」
「!……え?」
「女神が着けると、そんな安物でも輝いて見える。
さすがレノアーノ様、だよな」
「……」
俺の"綺麗"に一瞬パァッと嬉しそうに表情を輝かせたレノアだったが、続きの言葉を聞いて苦笑いしながら俯いた。
居心地の良かった空気が、変わっていく。
最後くらい。
最後くらい、素直に、綺麗に、良い想い出になるようにしたかった。
だから、会おうと決めた。
ーーでも、無理だ。
最後だから、綺麗になんて出来ない。
素直になろうとすればする程、醜くて……。綺麗にしようとすればする程、汚してしまう。
"幸せになれ"。
なんて、言えるかよ、馬鹿ッ……。
幸せになんかなるなッ!
俺の事、忘れるんじゃねぇよッ……!!
幸せになってほしいのに、なってほしくない。
矛盾だらけの感情ばかりで、嫌になった。
……けど。
「……あの頃に、戻りたい」
「……ん?」
「そしたら……」
「!っい、で……ッ」
「こんっな歪んだ性格にならないように、私が教育してやったのに〜!」
そんな俺にも、レノアは変わらない。
俯いていたと思ったらすぐ顔を上げて、俺の頬を指で摘んで、歯を見せて笑った。
その姿を目にして、自分がとても情け無く思えてくる。俺に足りないものを、彼女が全部持っているような気がして悔しい。
"お前は、俺がいなくても平気なのか?"そんな想いさえ、浮かぶ。
それでもレノアの行動や仕草の一つ一つに目を逸らす事が出来ずに見つめていると、彼女の声色が変わった。
「……嘘。本当は、悔しいの」
「っ……悔しい?」
「見たかったなぁ〜。ツバサが、こんな素敵な男性になるまでの成長の日々……」
ポツリと呟かれた言葉に、ドキンッとした。
まるで俺の気持ちを読んでいるかのように、彼女は指の力を緩めて言った。
一緒に居られなくて、もどかしい気持ち。いきなり今日成長した姿を見て、寂しい気持ち。"私も同じ気持ちなんだからね"って俺の皮肉を受け入れて、優しく叱ってくれた。
そんなレノアを前にして、俺はこのままつまらない意地を張り続けて、子供のように拗ねていていいのかーー?
……いい訳がない。
俺は左手首にはめている父さんの腕時計をギュッと右手で握ると、口を開きかけた。