片翼を君にあげる①
でも。
運命の神様は意地悪だ。
「レノア、ごめ……」
「ツバサ、ごめ……」
同時に言葉を発した俺達が「え?」と互いに目をぱちくりさせた瞬間、チャペルの扉が勢い良くノックされる。
「レノアーノ様!申し訳ございません!
只今連絡が入り、お父様がこちらに向かわれているそうです!急いでお部屋にお戻りをッ……!!」
外から申し訳なさそうにそう告げるレノアの執事レベッカの言葉が、俺達の時間に終止符を打った。
ヴィンセント様が俺とレノアが二人で会っている現場を目撃したら、大変な事になるだろう。
俺だけならまだしも、加担したシオンやレベッカまでどんな処分を受けるか分からない。
最悪な事態にならない為にも、一刻も早くこの場を去る必要があった。
それでも俺達は暫く見つめ合ってて……。レノアは瞼を閉じると「分かったわ。もう少し待って」と返事をしてから、再び目を開いて俺を見上げた。
「プレゼント、ありがとう。
今度、必ずお返しをするわ」
「……何言ってんだ、いいよ。無理、だろ?」
「っ……無理じゃないもん!」
俺達が会える機会なんて、おそらくもうない。
運命の神様の意地悪にまた勢いを失くしてしまっていた俺が苦笑いすると、レノアは手袋の中に隠し持っていたメモを取り出し俺の手に握らせる。
「……連絡して?」
「……」
「捨てちゃ駄目だからねっ?」
それにはおそらく、ポケ電の番号が書かれているに違いない。
そこまで分かりながら、俺は頷く事も、「うん」と答える事も出来ない。
「絶対に会いに行くわ!っ……必ず!」
そんな俺の手をもう一度だけ強く握ると、レノアは後退りするように離れて、扉の方を向くとその場を駆け出して行った。