独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
プロローグ



重厚な風合いの執務机の向こうに、年若い男性がいた。
濃いブラウンの髪はサイドバックにあげられている。大きく印象的な目は髪の毛と同じブラウン。高い鼻梁と口角の上がった薄い唇が、彼を魅力的に見せる。極めて整った顔立ちの男性だ。

「初めまして」

私は背筋を伸ばしてから最敬礼をした。

「梢初子(こずえういこ)と申します。本日よりお世話になります」
「文護院連(ぶんごいんれん)だ。…って、もう知ってるか」

彼は人懐っこい笑みを浮かべ答えた。デスクの上で指と指を組み、わずかに頭を傾け興味深げに私を眺めている。

「遠いところを御苦労。引越しはつつがなく済んだか?」
「はい、お陰様で昨日中に無事終わりました」
「ろくに休みもやれずにすまないな」

大きな透明感のある目。まっすぐな視線が私を射貫く。この綺麗な目で見つめられて、ときめく女性は多くいるのだろう。噂では、たいそう女性に人気があるらしい。

「梢、おまえは俺の叔父からなんと言われてここにやってきた?」

彼の叔父―――文治(ぶんち)銀行頭取に命じられたことを反芻する。言葉を選べば答えても差し支えないだろう。

「連様のお仕事の補佐をするように、と」

文護院連は私の顔をじいっと見つめ、次に明るく哄笑した。嫌味のないからっとした笑い声だ。

「そうか。でも、俺が聞いているのは、ちょっと違うな」
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