独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
その日、研修を終えた父と越野支店長は仙台に戻る前に、私と連さんと会食となった。一応、結婚の挨拶を兼ねているので、連さんが仕事相手とよく使う料亭に予約を入れてある。連さんが会議で送れるため、私たち三人は先に座敷に揃っていた。
父には妹へのお土産をたくさん渡した。お菓子や限定のコスメなどだ。

「文護院常務には、よくしてもらっているんだな」

父がしみじみと言う。その表情は寂しそうでもあったけれど、安堵の方が強いように見えた。

「うん、もったいないくらい気遣ってくれるの。噂とは違って、誠実な人だよ。私と入籍したから女性とは食事にも行かないなんて言うんだもの」
「以前会ったときより、落ち着かれた感じがするよ。梢の影響もあるんじゃないか」

越野支店長が以前のように私を呼び、言う。

「でも、親としては、初子に申し訳ない気持ちですよ」

父が言い、越野支店長が私をじっと見た。

「梢、お役目とはいえ、人生の大事な時期を使ってしまう。嫌になったら、いつでもそう言いなさい。常務や頭取に言いづらければ、私を通してくれて構わない。不利益を被らないよう、考えるから」

ふたりは私に逃げ場を用意するつもりのようだ。こちらのことは気にせず、好きな道を選べと言ってくれている。気持ちが嬉しいから、私は背筋を伸ばし、ふたりを見つめた。

「お父さん、越野支店長、ありがとうございます。一度お引き受けした仕事です。最後まで頑張りたいと思っています」

断れないから引き受けたわけじゃない。私の意志で、今ここにいる。
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