独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
七月、私と連さんが入籍してふた月と少しが経った。
連さんは相変わらず精力的に仕事に取り組んでいる。本部での決まったことを最初に運用するのが本店営業部なので、他の支店に先駆けて新システムの試験導入がされたり、金融商品のキャンペーンが実施されたりと慌ただしい。また一部進んでいたIT化をいっきに推し進める動きは、頭取の指示だ。

私は、連さんの元で秘書業務、サポート業務についている。妻として公の場に出ることは、真緒さんのご自宅のパーティー以来ないけれど、行内では連さんの妻として扱われ始めている。
融資部の部長や、総務部の行員に「奥様」と呼ばれたときは、どうか今まで通り「梢」で呼んでほしいとお願いした。面映ゆいというより、私には不似合な肩書で呼ばれるのが少しつらい。

連さんと私の関係は、大きく揺れ動いたわけではない。だけど、以前より連さんといる時間が増えた。
たとえば休日、一緒に部屋を掃除したり、並んで読書をしたり。平日の夜、一緒にお茶を飲み、甘い物を食べたり。
そんな同居人としてちょうどいい距離でいる。
連さんは明るく好意を示し、私はそれをなるべくそっと受け流す。めげずに連さんが私に言い寄り、私はそれをぐいぐいと押し返す。

困っている。連さんは優しくて強引だ。距離を縮めてきては、様子を窺ってくる。私が強く拒否できなければ、どんどん近づいてくる。
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