独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
いや、連さんのせいにばかりできない。私は、連さんがからかうように近づいてくるこの日々が嫌ではないのだ。
綺麗なブラウンの瞳で見つめられ、名前を呼ばれたら、どきりとする。
一度したキスが蘇り、頬が熱くなる。ふざけて髪や頬に触れられたら、意識してしまって目も合わせられない。
彼の甘くて意地悪な態度に、いちいち過剰反応して。我ながら情けない。

このままではいけない気がする。
私は連さんとの日々に居心地の良さを覚えている。迫られ、口説かれ、嫌だと思えなくなっている。
私たちは、いずれ離婚するのに。



休日の午前中、私は自室のバスタブを無心で磨いている。
ハウスキーパーを断ってから、二部屋を掃除している私だけれど、これがなかなか大変だ。ふたりで使うには広すぎる空間なので、使っていない部屋は最低限の掃除にしている。しかし、お風呂やトイレはお互い毎日使うものだ。こまめに綺麗にしなくてはならない。

今日は日曜なので、私は気合いを入れて掃除していた。連さんの方は終わり。今は私の方。連さんはジムに出かけた。帰り道に美味しいパンを買ってきてくれるそうなので、昼食はそれにしようと話している。

こうしてみるとすっかり夫婦らしくなったと思う。
こんな高層マンションでセレブな暮らしの仲間入りをしているけれど、私と連さんの暮らしはシンプルでつつましいものだ。それがいっそう、ごく普通の夫婦らしさを強調する。

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