独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「どうしよう」

つい、口からこぼれた。どうしよう。毎日が楽しい。
連さんといると楽しい。
幸せを感じたくない。幸せに慣れてしまいたくないのに。

そんなことを考えていたせいだろうか。つるんと手がすべり、シャワーが滑り落ちた。あ、と思ったときには水が噴水みたいに巻き散らかされる。慌てて、ノズルを取るけれど、全身びしょぬれになってしまった。

「あーあ、私の馬鹿」

その場でワンピースを脱いだ。無事だったショーツとキャミソール姿で、髪の毛を拭きながらバスルームから出た。着替えを取りにいこう。

「初子……ただいま」

真横から声が聞こえ、私は弾かれたように振り向いた。
リビングに連さんがいる。たった今帰ってきたという様子だ。嘘、まだ帰ってくる時間ではないはずだ。

「お、おかえりなさいませっ!」

反射的に言葉は出たが、自分の格好を説明したものか隠したものか悩む。パニックの私に、連さんが近づいてきて、着ていた薄手のジップアップパーカーをかぶせてくれた。彼のサイズだと、私のヒップまで隠れる。

「水を被ったか? 驚かせて、すまん。ジムが混んでいて、早めに帰ってきてしまった」
「お見苦しいところを……すみません」
「見苦しいというか、なんというか、非常に困るよ」
「え」

見上げると不意打ちでキスをされた。
許可制では? そんな見当違いな疑問が浮かび、すぐに消えた。きっと、連さんも止められなかったのだ。
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