独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「俺の顔は嫌いか?」
「えっ?」
「自慢じゃないが、まあまあだと思ってるぞ。今まで女性に嫌だと言われたことがない。声や顔が生理的に嫌悪をもよおすというのであれば、俺も引かざるを得ないが!」

途端にふざけて茶化してくるのだから、この人はどこまでも優しい。強引なことをしそうになったと思っているのだろう。
私は困って笑い、首を左右に振った。

「連さんの整ったご容貌に抗える女性は少ないと思います」
「じゃあ、初子はその数少ない女なんだな」

連さんも苦笑いしている。
私だって、揺れる。この人の顔だけじゃない。温かで陽気な性格、優しい気遣い、おおらかな包容力。一緒にいて居心地がいい。

「……問題は私にあります」

この瞬間まで私は彼に自分自身の話をするつもりがまるでなかった。
しかし、隠し立てすべきではないと思った。ここまで熱心に私を求めてくれる男性だ。今だけの関係ではなく、未来まで見据えてくれている。ただの契約妻で終わらせまいと心を砕いてくれる。
誠意に誠意で返さないのは卑怯だ。

「私は本来、連さんのお傍に侍ることなど許されない人間です。文護院家の危急の折、お役に立てる都合のいい人材としてこの立場を受け入れました」

私はソファに座り直し、心を決めるためにひとつ息をついて、それから彼をじっと見つめた。
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