独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「父が仙台支店に異動し、そこでの生活の面倒を見てくださったのが当時融資係の部長だった越野支店長です。地元に溶け込めるよう、様々な配慮をしてくださいました。妹は越野支店長の奥様に毎日付き添ってもらううち、ひとりで学校に行けるようになりました」

私たちより上の学年にいた越野支店長のお子さんが、いじめられないように見張ってくれた。近所の人たちは、家事の担い手のいない我が家を助けてくれた。

「私たち親子はあの土地でようやく息を吹き返したんです」
「そうか、つらい想いをしたな」

連さんは頷き、それから私の目をじっとみた。

「初子がどれほど仙台の土地を愛しているか、地元の人たちに愛着があるかよくわかった」
「多くの方のご厚意で、生きてこられたように思います」
「しかし、初子の心はずっと引っかかっている。お母さんのことが」

唇を噛みしめる。引っかかっているというより、がんじがらめにされているように思う。母の罪は私たち家族を追い詰め、母の裏切りは精神的に深い傷をつけた。

「……私は母を許せません。母の血が流れていることが苦しい。その血を受け継ぐ子を産むことも考えられません。まして、文護院の血筋に入れるなどと」

私は連さんに向かって頭を下げる。これが私の精一杯の気持ちだ。

「お役に立ちたい一心でここにおりますが、たとえいっときでもあなたの御心をお慰めする存在にはなり得ません。どうかご容赦ください」

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