独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「俺の気持ちを正直に言うぞ。初子がいつまでも気にし続けるようなことではない。現に叔父はそう言っているんじゃないか? おまえが不適格なら妻に推挙などしていない」

連さんがふうと息をついた。呆れているというより、兄のような親愛を含んだ視線だ。

「以前も言ったが、初子には積み上げてきた二十六年がある。それは誰のものでもなく初子のものだ。母親は関係ない」
「ですが」
「そもそも親が何をしたかで人生を決められてたまるか。親と子は違う生物だ。生きる意味に自分でバイアスをかけるな。俺の知ってる初子は、努力家で真面目過ぎる可愛い女だぞ」

目を伏せ、拳を握りしめる私を、連さんが優しく見つめる。

「気づけ。母親の罪に囚われ、こだわっているのは初子だけだ」

はっと顔をあげた。一瞬にして、視界が開けた気がした。

「こだわっているのは、私だけ……」
「ああ。初子は自分で自分を罪悪感の海に沈めているんだ。自分を責めて未来を閉ざしている。おまえは何もしていないのに。おまえは本来自由なのに……」

連さんの言葉に涙が溢れてきた。

「私は……私……」
「初子は自分で選択していいんだ。文治に忠義を尽くすこともない。明日、俺を捨てていきなり海外に自分探しの旅に出たっていいんだぞ」

まあ、俺は嫌だけどな、と笑う。
私は言葉を探すが、唇が空振りするばかりだ。涙が止まらない。
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