独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「俺も人のことは言えなかったりするよ。父親と叔父に道を作ってもらって、頭取に就こうとしている。情けない限りだ。さらには、自分より後継に相応しい人間がいると思ってる」
「なにを……、連さんよりふさわしい人間なんていません」
「ほら、人のことだとそう言えるだろ? でも、自分のことはなかなか評価しづらいもんだ。俺は、恭にずっと劣等感を持っている。勝てたことがないんだよ、学生時代から」

連さんがそんなことを口にするなんて意外だった。いつも完璧で、余裕の笑顔の連さんが?
私は恭さんについては優秀な人だと聞いているだけで、本人とわずかに喋った経験しかないので判断がつかない。連さんの対抗馬として彼を擁立しようという動きもあるとは聞いているが。

「勉強もスポーツも頑張ればそれなりにできる。だけど、俺の上にはいつも恭がいる。俺が勝つことだってあるけれど、根っこの部分で恭に一歩及ばない気がしてる。撫子を任せられるのは嬉しいが、同時に俺よりも頭取に相応しいのはいあいつじゃないかって考えてしまうこともある」

連さんは自嘲気味に笑った。
こんな表情をする人だったのだ。私は明るく陽気な姿しか見ていなかったけれど、連さんにもきちんと人間らしい弱さがある。
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