独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
6.恋をしている
初子に気持ちを伝えた。現時点での気持ちだ。
この先も一緒にいたいという願いを、初子は以前より前向きに考えてくれるだろう。
『恋』と俺自身も言明しなかったのは、おそらく俺も恋愛という意味合いで女性と付き合ってこなかったからだ。今心の中で育つ感情は初子への恋。だけど、結構激しくて、ふとすると初子を強引に奪ってしまいかねない。だからこそ、今は『好意』程度にしておきたいのだ。彼女の心が決まるまで、重たい愛情を押し付けたくない。
初子の過去については、実は密かに調べていた。
母親が不貞の果てに逃げたということはわかったが、まさかその裏に隠された横領事件があったとは。おそらくは叔父と越野支店長が初子たちの生活を守るために情報の拡散を防いだのだろう。初子のいた東北のその小さな町は多少覚えているものもいるだろうが、今後初子や俺を脅かすようなネタにはならない。
初子は母親の罪を自身の罪とばかりに考え、文治へは贖罪の気持ちで奉公していたのだろう。
調査で見つけた写真には幼い初子とよく似た母親の姿が映っていた。初子は同性としても家族を裏切って不義の愛を取った母親を許せていない。それがあの極端な異性との距離なのだろう。
初子と心身ともに夫婦関係を深めていくには時間が必要だ。
ひとまず、後継決定即離婚の方程式は崩せていると思うので、今は俺自身の立ち位置をはっきりさせるべき。
俺は叔父に後継者指名を早めてほしいと打診している。来年度まで待てない。文治の後継は俺だと立場を確立しておきたい。
初子のためだけではない。もう、中途半端に自分を卑下するのはやめたくなったのだ。