独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
その日のうちに私は父と妹に事情を話し、上京を決めた。

『無理はしなくていい』

父はそう言ってくれた。私の人生を決めてしまったこと、今、また変化をもたらしていることに責任を感じている様子だった。

『初子は、責務を果たそうと思っているだろうが、業務は大きく変わるだろうし、東京でひとり住まいなんて心細いだろう』

私は首を振った。

『望んでいくのよ。きっといい経験になるわ』

私にできる恩返しの機会が巡ってきたのだ。今の私たちがあるのも、頭取のおかげ。その頭取たっての願いであるなら叶えたい。

『お姉ちゃんと離れるのは寂しいよ』

妹の美雪が言う。寄り添うように生きてきた三人家族の別れは私もすごく寂しい。それでも決めたことだ。

『落ち着いたら、しょっちゅう帰ってくるようにする。美雪も遊びにくればいいよ』
『うん、東京案内してね』
『お父さんも一緒に、東京の観光地、全部回ろう』

四つ下の大好きな妹を抱き締め、私は寂しい気持ちを飲み込んだ。

翌月、私は異動という形で上京し、文護院連に会ったのだった。


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