独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「地方は車で移動が多いですから。東京にきて、歩きまわる楽しさを知りました」

初子は日差しの中、眩しく笑う。

「初子、俺がいないとき、結構散歩してるものな。皇居の回りは歩いて見たんだろう?」
「はい、いい散策になります」
「そんなに運動が好きなら、今度ジムに連れて行ってやると言っているのに。ビジター利用ができるところだぞ」
「運動とお散歩は少々違う気がします。私は、お散歩が好きです」

そう言って、初子は伸びをした。全身から発せられる若々しい美しさ。初子は綺麗になった。最近、いっそう綺麗に。
じっと見つめていると、初子が俺の見つめ返してくる。どうしたの?というあどけない表情に、照れくさくなってごまかすように言った。

「暑くてとろけそうだな」
「連さんも弱音をはくのですね」

初子にしては挑発的なことを言う。見れば、少しだけ悪戯っぽい表情で笑う初子。

「いーや、俺は弱音などはかん。まだまだ元気! ここからあの自販機までダッシュもできるぞ」
「ご無理はいけませんよ。私も走れますが」

ローヒールのバレエシューズの初子が足首をまわしてみせる。

「じゃあ、競争だな!」

言うなり俺は走り出す。気配を察していた初子も走り出した。
熱風が頬や腕をなぶる。足が土を蹴る感触が心地いい。
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