独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「それで、連は初子さんを置いてきちゃったの!?」

顔を合わせるなり、真緒に怒鳴られた。理不尽だ。俺は幼馴染が泣いているから、妻に謝って駆けつけたというのに。当の幼馴染が初子をほったらかしたことを怒っている。

「初子が行ってこいと言ってくれたんだ。真緒の様子が変だと話したら」

真緒の自宅、応接間には俺と真緒だけだ。手伝いの女性がお茶を出したきりいなくなる。真緒のご両親も不在のようだった。
真緒の目元はまだ赤く化粧が崩れているから、泣いていたことは間違いない。

「初子さんとデート中だとわかったら、呼ばなかったわ」

真緒はふうとため息をついた。彼女は上品で賢く、昔から周囲に人の絶えない女性だが、俺や恭のように慣れた相手にはぞんざいだ。慣れた相手だからこそ、弱音をはけるのだろうが。

「それで、どうした。せっかく来たんだから話を聞くよ」

真緒は数瞬言い淀み、それから言った。

「結婚が決まったの」
「おお、それはおめでとう」
「おめでたくないわ」

沈鬱な表情からも、真緒にとって喜ばしいことではないと伝わってくる。
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