独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「こんなことなら、言いたいことを言っておけばよかった」
「真緒、おまえ好きな男がいるんだろう、他に」

俺の問いに真緒がこちらを見た。驚いた表情をしている。

「連って思ったより人のこと見てるのね」
「おまえ……。友達だから気づいただけだよ。結婚の話を今までずっとスルーしてきたのも、その男のためか?」
「……部下なのよ、五つも下」

真緒は観念したように自嘲的な笑みを見せた。

「彼も好意を持ってくれているのはわかる。だけど、私と恋仲になれば、彼こそ財産狙いだと言われかねない。まだ若い彼にそんな重荷を背負わせたくないのよ」
「それで他の男と結婚では意味がないだろう」

答えはかえってこない。いいはずはない。だから、真緒は困って俺に電話をしてきたのだ。

「話を聞いてもらえただけでよかったわ」

力なく言う真緒。俺は歯がゆい気持ちになった。

「力になれることがあれば」
「連が私のために動けば、父は文治との取引を辞めると言いだすわよ。連は静観していて。……結婚を先延ばしにできるよう、父と交渉してみるわ」

そう言った真緒は、自信なさそうだった。
真緒の父親、センタールートロジスティクスの横尾社長は、豪胆な人だ。真緒の意見が通るだろうか。


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