独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「これ、初子が作ったのか?」

本職の探偵かというくらいの写真と、報告のレポートだ。初子が頷く。

「はい。仙台支社時代に、行員の内偵調査を担当していたことがありますので」

内偵調査、それは公にはしていないが、文治では各支店で行われていることだ。
金融を取り扱う銀行の常として、誘惑に駆られる行員は必ず出てくる。そこで、行員の生活態度が急に派手になっていないか、高い買い物をしていないか、また借金などがないかを調べることがあるのだ。とはいえ、同僚を疑わなければならないこともあり、進んで担当したくない行員も多いだろう。
おそらく初子は、母親の罪に対する罪悪感から買って出ていたのではなかろうか。

「今回は真緒さんがお父様にご説明する材料だけ揃えばよかったので、一週間探ってみました。有益な情報かは真緒さんに精査してもらったので、私は行動確認と写真を揃えただけです」
「女関係が派手だというのも印象が悪いけど、この男たち、八俣組の構成員よ」

真緒が男たちの話している写真を指差す。八又組は指定暴力団だ。

「暴力団からの仕事をこっそり請け負って、フロント企業の名前で取引してたの。初子さんの写真から、部下に頼んで調べさせた」
「ターゲットの一足飛びの出世は、暴力団関係者との結びつきもあったのかもしれませんね」
「昭和の初期は、うちもそういった手合いと付き合いがあったみたいだけれど、今は絶対NGよ。これを父に見せたら、さすがに青くなってたわ」

それは真緒の父親も仰天しただろう。社内ではいい婿、いい後継者になれると思って見ていた男の体たらくである。
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