独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「初子……受け取ってはくれないか?」

連さんが穏やかな声音で尋ねる。私の表情が明らかに喜び以外の感情で染まっていることに、彼だって気づいている。そして、私のこの曖昧な態度が彼を傷つけている。

「自信がないのです……」
「出自のことは関係ないと言ったぞ。叔父も撫子もおまえと俺が一緒にいることを望んでいる」
「違います……そうではなくて」

私は唇を噛みしめた。
気づいてしまう。自分の不安の正体に。

「私の不安は……あなたの心を一生惹きつけ続けられないのではないかというものです」

言いながら涙が滲んできた。連さんとの身分差、母の行動、それらはもうただの言い訳でしかない。

「ごくごく単純で多くの人間が覚えるであろう不安です。この人と一生添い遂げられるだろうか。……連さんから、出自という言い訳を剥がされ、契約を超えたいと言われ……私に残ったのは、いつかあなたからいらないと言われる不安でした」
「初子」
「つまらない女です。なんの面白みもない。契約の中ならあなたに離婚を言い渡されてもいい。だけど、もしあなたの本当の妻になったら。……連さんに飽きられ、遠ざけられるのは耐えられない」

彼の大きく美しい瞳を見つめた。
いつからこの綺麗な瞳を愛しく思っていたのだろう。この人の瞳に映る私は、鏡を見たくなかった私じゃない。過去に囚われうつむいていた私じゃない。
連さんが私を変えてくれた。
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