独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「あ~、疲れた疲れた」

パーティーが終わって帰り道、後部座席ではなく助手席に座り、連さんはぐーんと伸びをした。手足が長いので、車の中で伸びるとあちこちにぶつかる。私はホテルの地下駐車場から車を発進させる。この後、誰とも予定のない彼を自宅マンションに送り届けて、私も業務終了だ。

「梢もお疲れ様。待ってるのは退屈だっただろう」
「いえ、味わったことのない世界なので、見ているだけでいい経験をさせていただいていると思います」

これは正直な感想だ。見ることのできない空間を味わっている。誰に話すこともないので、せいぜい美雪に教えてあげる程度だけれど。

「これから、パーティーなんかの機会は増えるから、慣れろよ」
「はい」

私が彼の傍にいる理由は何だろう。ひと月が経ち、余裕がでてきたせいなのか考えてしまう。もしかして、まだ私には役割があるのだろうか。秘書業務以外に……。

「梢、そこ停めて」

急に言われ、私は慌ててハザードランプをたく。駐停車禁止の場所ではないけれど、路肩に停めるときは緊張する。連さんがさっと助手席から降りていった。なんだろう、入って行ったのはコンビニだ。

「ほら、これをやる。食べろ」

戻ってきた彼はドアを開けて、私の顔を覗き込んだ差し出した手には熱々のブリトー。意外なものに私は困惑の目で彼を見つめ返した。
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