独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「これは一体……」
「腹が減ってるだろう。なにも食べてないし。俺もパーティー会場の食事はいつも食べた気がしなくてな」
「は、はあ。ありがとうございます」
「ハムとチーズ入りのブリトーが一番好きなんだ。実は大学生なるまでこういうものは食べたことがなかったんだよ。コンビニの肉まんもだぞ。信じられるか?」

ぺらぺらと喋りながら助手席に座り直す連さん。彼は気さくで、いつもこうしていろんな話をしたがる。根っから他者を楽しませるのが好きな性格なのだろう。

「さあ、食べろ。食べたら出発だ。なに、急がなくていい」

自分でもブリトーの包みを開けるので、私も倣ってブリトーを開け、口に運んだ。熱くてすきっ腹にしみわたる美味しさだ。だけど、運転のために急いで口に押し込む。

「美味いだろ? 足りなかったか?」

口いっぱいで返答に困った私は一生懸命首を左右に振った。

連さんは良い上司だと思う。御曹司然とした価値観の差は感じるし、女性の扱いも私から見たらプレイボーイのそれ。だけど、仕事面も人間性も、好ましい人物。

それでいいじゃない。この状況に、不審や不満を感じる必要はない。
私のような人間を救ってくれ、引き立ててくれた頭取の恩に報いることが、私がここにいる意味だ。
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