独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「どうか、お話を聞いてください。助けると思って」
撫子さんの嘆願の横で、頭取が続ける。
「文治は知っての通り一族経営だ。私の前は、連と撫子の父親で私の兄が頭取をしていた。今から二十年前、この子たちがまだ小学生の頃に亡くなってね。私には子がなかったし、この子たちの本当の親のつもりでここまできた。いつか、連に頭取の座を譲るつもりで」
頭取は言葉を切る。まだ混乱している私をじっと見つめる。
「しかし、近年経営の多角化に伴い収益は増大。嬉しいことだが、野心を持つ者も行内に多く現れた。連以外を後継に立てようという動きや、まだ年若い連を差し置いて先に頭取の座に就こうと狙う者がいる」
「兄は非常に有能ですし、才知溢れる人間ですが、見た目も性格も華やかなものですから、軽く見られがちです。あることないこと噂をたてられやすくて。初子さんも、何かお聞き及びではありませんか?」
撫子さんが言うことには心当たりがある。地方にまで、彼の女性好きの噂は聞こえてきた。実際はモテるだけの上品な男性だったけれど、彼自身をひと目見ただけでは、その整った容貌や麗しく華美な雰囲気から遊び人の噂を信じてしまう人がほとんどだろう。
彼が有能な経営者になり得る人物であるという評は流れてこないのに、悪い噂ばかりが流される。それは即ち、行内に敵がいるということに他ならない。
「そこで、梢くん、私は連を結婚させたいんだ。きみのような成績優秀で堅実な細君を迎え、彼が落ち着いたということを行内外に印象付けたい」
そんな……、私は口の中だけで呟いた。言い方は悪いけれどイメージ戦略のために結婚しろと言っているのだろうか。
撫子さんの嘆願の横で、頭取が続ける。
「文治は知っての通り一族経営だ。私の前は、連と撫子の父親で私の兄が頭取をしていた。今から二十年前、この子たちがまだ小学生の頃に亡くなってね。私には子がなかったし、この子たちの本当の親のつもりでここまできた。いつか、連に頭取の座を譲るつもりで」
頭取は言葉を切る。まだ混乱している私をじっと見つめる。
「しかし、近年経営の多角化に伴い収益は増大。嬉しいことだが、野心を持つ者も行内に多く現れた。連以外を後継に立てようという動きや、まだ年若い連を差し置いて先に頭取の座に就こうと狙う者がいる」
「兄は非常に有能ですし、才知溢れる人間ですが、見た目も性格も華やかなものですから、軽く見られがちです。あることないこと噂をたてられやすくて。初子さんも、何かお聞き及びではありませんか?」
撫子さんが言うことには心当たりがある。地方にまで、彼の女性好きの噂は聞こえてきた。実際はモテるだけの上品な男性だったけれど、彼自身をひと目見ただけでは、その整った容貌や麗しく華美な雰囲気から遊び人の噂を信じてしまう人がほとんどだろう。
彼が有能な経営者になり得る人物であるという評は流れてこないのに、悪い噂ばかりが流される。それは即ち、行内に敵がいるということに他ならない。
「そこで、梢くん、私は連を結婚させたいんだ。きみのような成績優秀で堅実な細君を迎え、彼が落ち着いたということを行内外に印象付けたい」
そんな……、私は口の中だけで呟いた。言い方は悪いけれどイメージ戦略のために結婚しろと言っているのだろうか。