独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「身内贔屓かもしれませんが、兄は視野が広く、文治の頭取に相応しい男だと私は思っています」

撫子さんも言う。

「いえ、これは文護院のこだわりかもしれないわ。正直に言えば、一族以外のものに、私たちが守ってきたものを渡したくない」

古い考えね、と付け加えうつむく撫子さん。彼女の瞳には由緒正しい名家の誇りが見えた。

「いえ、私もひと月お仕事をしてまいりまして、連さんは文治銀行のトップたりうる方だと感じています」

素直な気持ちを伝えると、頭取も撫子さんもわずかに頬を緩めた。

「ありがとう、初子さんが兄を信じてくれるなら嬉しいわ。実は、後継者候補に私の婚約者の名前も挙がっているの。婚約者の恭(きょう)は、私と婚姻して一族入りするから。彼は文治本部でトレーダーの仕事をしているけれど、頭取になることは私も彼も望んでいない」
「連の未来だけでなく、撫子夫妻のためにも、連には頭取を継いでほしいと思っている」

どうしよう、話がどんどん進んでいる。私は慌てて、おずおずと尋ねる。

「あ、あの、いくら頭取になるためとはいえ、私のような部下と籍を入れるだなんて、連さんもご不快ではないでしょうか」

どうしても釣り合わない。
どころか、私は文護院家に入るには相応しくない血筋だと思っている。印象づけのためだけとはいえ妻に娶るなら、もっと家柄の良い女性がいいのではなかろうか。
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