独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「兄はあの通り奔放なところがあります。表向きあなたという妻を迎えても、裏で女性と会ったりするかもしれません。きっとご不快なことも多いと思います。嫌であれば表向きの妻で構いません。後継者指名後であれば、離婚してくださっても構いません。子どもを成せということも言いません」
撫子さんが近寄ってきて、私の手を取った。
「手前勝手な身内の問題に初子さんを巻き込みます。それでもどうか、あなたの数年をお借りできませんか? 戸籍を汚してしまうことに対する対価として、生涯の保証などと、生臭いことしか言えず申し訳なく思います」
「梢くん、この通りだ。力を貸してもらえないか?」
目上のふたりに頭を下げられ、私は困惑した。どう考えたっておかしい。
文護院連という身内を絶対にトップに押し上げたい。私生活を落ち着かせ、印象をよくしたい。下手に上流のお嬢様を迎えるのではなく、絶対に文句が出ず、金を黙らせられる部下を妻の役職につければいい。用事が済めば離婚していい。
……勝手すぎはしないだろうか。すべては文護院家のお家事情で、文治銀行の内紛防止のためだ。
私の人生を……そんな……。
私は顔を上げ、撫子さんの手をやわらかく外した。そして一歩下がり、最敬礼のお辞儀をして言った。
「梢初子、この度のお話、慎んでお受けいたします」
おかしな話だけれど、私はこの話を受ける。
私はずっと、自分の人生に大きな意味はないと思っていた。大事な父と妹と暮らせればいい。いつか妹を嫁に出し、やがては父の最期を看取れればいい。そのためにも、恩のある文治銀行に尽くす。それが私の人生だった。
女としての幸せは端から望んでいない。手に入れる気もなく、手に入ることもない。そんな資格、私にはない。
だから、この妙な要請を受け入れる。
数年、妻という役職を勤めれば、恩返しができ、家族の生涯の安定が手に入る。
撫子さんが近寄ってきて、私の手を取った。
「手前勝手な身内の問題に初子さんを巻き込みます。それでもどうか、あなたの数年をお借りできませんか? 戸籍を汚してしまうことに対する対価として、生涯の保証などと、生臭いことしか言えず申し訳なく思います」
「梢くん、この通りだ。力を貸してもらえないか?」
目上のふたりに頭を下げられ、私は困惑した。どう考えたっておかしい。
文護院連という身内を絶対にトップに押し上げたい。私生活を落ち着かせ、印象をよくしたい。下手に上流のお嬢様を迎えるのではなく、絶対に文句が出ず、金を黙らせられる部下を妻の役職につければいい。用事が済めば離婚していい。
……勝手すぎはしないだろうか。すべては文護院家のお家事情で、文治銀行の内紛防止のためだ。
私の人生を……そんな……。
私は顔を上げ、撫子さんの手をやわらかく外した。そして一歩下がり、最敬礼のお辞儀をして言った。
「梢初子、この度のお話、慎んでお受けいたします」
おかしな話だけれど、私はこの話を受ける。
私はずっと、自分の人生に大きな意味はないと思っていた。大事な父と妹と暮らせればいい。いつか妹を嫁に出し、やがては父の最期を看取れればいい。そのためにも、恩のある文治銀行に尽くす。それが私の人生だった。
女としての幸せは端から望んでいない。手に入れる気もなく、手に入ることもない。そんな資格、私にはない。
だから、この妙な要請を受け入れる。
数年、妻という役職を勤めれば、恩返しができ、家族の生涯の安定が手に入る。