独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
2.年貢の納め時



年貢の納め時とはどんなときに使うのが正解だろうか。
これは親友であり、妹の婚約者である小椋恭(おぐらきょう)に言われた言葉だ。
結婚が決まったと話したら、そんなふうに言われた。連も年貢の納め時だな、と。

それは既婚者になるから女遊びを控えろという意味なのだろうが、そもそも俺は“遊んで”などいない。女性は等しく尊重すべきだし、俺を食事やベッドに誘ってくれる女性は、すべて身分のしっかりした才媛ばかり。彼女たちの好意を無碍にしては、失礼にあたる。割り切った一夜の楽しみは、お互いパートナーがいなければ受けて問題ない。

だから、パートナーができる俺には、今後女性の誘いを受けるという選択肢はなくなるのだ。
年貢の納め時という、嫌々ながらも身を慎んで落ち着くというニュアンスは当てはまらないと思うのだが……。

そう、ともかく、俺は結婚した。
叔父がわざわざ仙台支店から連れてきた優秀な部下と。



その日、我が家にやってきた引越しトラックは小さなワゴンが一台きりだった。
梢初子の引越し荷物はとても少ない。リビングの中央にひとまとめにしても段ボール三つで全部だった。家具家電は、元の持ち主の撫子が置いて行ったものがあるので、不要だとは言ったが、女のひとり住まいでここまで物が無いなんて驚きだ。撫子が恭と住むためにこの部屋を出たときは、大きなトラック二台でもギリギリだったというのに。

「初子、ようこそ我が家へ」

名前で呼ぶようになり数日、初子はまだ戸惑った顔をする。
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