独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「今夜は引越し祝いで、食事に連れて行ってやろう。そのうち、叔父や撫子、撫子の婚約者とも一緒に食事しよう」
「ありがとうございます。どうか、あまりお気遣いなくお願いします」

俺はOKOKと軽く答え、内鍵を使って自室に戻った。

夕方初子を連れ出すまで、ジムにでも行ってこようか。読み途中の経営雑誌を読んでしまおうか。フランス語はあまり得意じゃないから、どうしても読み解くのに時間がかかる……。などと思いつつ、紅茶を淹れ一人掛けのソファについた。

後継者指名のためにも結婚を、という話は以前から叔父にされていた。
しかし、数多いる綺麗なご婦人の中からひとりを選び、生涯の伴侶にというのは簡単に決められることではなかった。どの女性もいいところがあり、誘われれば悪い気はしない。実際、可能な限り好意を受け取ってきた。
女性は尊重すべきというのは、俺が大学時代に亡くなった母の言葉で、亡き父が細やかな気遣いのできる優しい男だったらしい。
もちろん、女好きのレッテルを貼られるくらいなので、母の望む路線とは違っただろうけれど。

伴侶にするなら、ひと時の楽しさや癒しとは違う観点で選ばなければならない。美しさや肌の相性より、理解力と知性がほしい。そうなると、自然と花嫁に求めるハードルがあがる。
たったひとりを選びあぐねているうちに、叔父が勝手に用意してきたのが梢初子だった。
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