独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
東北の国立大を卒業し、入社試験はトップの成績。仙台支店では個人向け融資のリテール部門で優秀な成果をあげている。
俺なりに調べたが、どうも彼女が幼い頃、父親は東北の別な地域の支店勤務をしていたらしい。叔父と現在の仙台支店長が便宜をはかり、異動や生活の世話をしたとか……。
それ以上の情報は出てこなかったが、初子が叔父に忠誠を誓っているのは、そのあたりに事情がありそうだ。

初子は現時点で理想的な妻といえる。
優秀な行員であり、秘書業務は抜かりなくこなしてくれる。寡黙で控えめ、会話の端々から知性も感じる。
愛らしい容姿は、着飾らせれば社交の場に連れ出しても目を惹くだろう。うちの口うるさい古株役員たちにも、連さんはいい細君を見つけた、と言われること請け合いだ。

「しかし、まあ、どうしたもんか」

俺はひとり呟く。
入籍し、今日から近居なわけだが、俺はあの妻をどう遇すればいいか考えている。あくまで書類上、形式上の妻。一緒に住んでいるように見せかけ、表立った舞台に連れ歩けばいい。それ以外は、上司と部下として接すれば問題ない。

しかし、それでは初子が気詰まりではなかろうか。結婚生活が勤務と同義なのだ。二十四時間体制で俺の秘書をさせるのは忍びない。
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