独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「いい香りですね」

ティーソーサーを受け取って頬を緩める彼女。よし、悪くない感触だ。

「コーヒーより紅茶を飲むことが多いかな。プライマリースクールの頃は、母と妹とイギリスにいてね。あちらに母方の親戚がいる。父が亡くなる少し前にこちらに戻ってきた」
「そうなんですか……」

ふと、初子がうつむく。何か考えるような様子見せ、それからカップに唇をつける。
俺は何気なく初子の隣にかけた。初子が一瞬目を見開くが、すぐに動揺を押し隠すように表情を消す。俺が隣に来るとは思わなかったようだ。

「初子」

名を呼び、振り向いた彼女の顎を捉え、そのまま軽くキスをした。
唇をかすめるくらいの軽いキスだ。

さて、どんな反応をするだろう。お互い大人。これで俺の意志は伝わったはず。
初子は人形のように固まっている。表情がかちんと凍りつき、見開かれた黒い目が俺を見ている。
いや、見ているというか……、初子おまえどこを見ているんだ?

「こういった接触は嫌か?」

答えが返ってこない。どうやら、ひどく驚かせてしまったようだ。俺はまだ近い距離にある初子の瞳を覗く。

「俺は初子に触れてみたい」

初子は石のごとく押し黙っている。よく見ると唇をきゅうっと噛みしめている。照れているのか? そんな感じじゃ……。
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