独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「連さん、こちら昨日分の稟議書です。午前中うちにお目通しをお願いいたします」
「ああ、わかった」

そう言いながら、パソコンで早速の本部からの連絡事項のチェックを始める。たてかけたタブレットには海外の経済新聞。
おそらく、国内の情報は朝食のカフェで精査済みなのだろう。支店長には取得すべき情報が多い。

私もいつも通り彼の横に立ち、本日の予定を口にする。

「十時から本社大会議室で役員会議です。昼食は頭取のご希望で赤坂の雨水亭に予約を入れました。お二人とも私の車でお送りいたします。午後十三時半に榮西グループCEOの左門様がお越しになるご予定です。夜はセントリリィズホテルにて代議士の工藤先生主催のパーティーが……」
「わかったわかった。もう大丈夫」

面倒くさそうに苦笑いして、連さんは言う。

「ありがとう、梢。ところで、東京暮らしもひと月になるな。どうだ、慣れたか?」

上京間もない私を気遣って、そんなことを言う。私などに心を砕かなくてもいいのに、と思いつつ頷いた。

「お陰様で問題なく過ごせております。すべて徒歩圏内で買い物ができるのは大変便利ですね。車の運転だけがまだ不慣れで、ご迷惑をおかけします」

都心部の道は何車線もあり、一方通行や突如として現れる右折レーンなど、ある程度知っていないと戸惑う道が多い。地方と比べ車の数も桁違いなので、用事で車を出すときは、いつも緊張する。
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