独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「紅茶の淹れ方が上手くなった」

私の手元を見て、にっこり笑う連さん。上品で美しい笑顔だ。この人に愛されたい女性はたくさんいるのだろう。

「連さんの手ほどきのおかげです」
「それは嬉しい言葉だ」

連さんがソファにゆったりと背を預けて言う。

「紅茶だけでなく、他の分野も手ほどきしたいんだけれど」

私はひそかに唇を噛んだ。動揺を押し隠して、ティーソーサーを彼の前に置く。

「キスとか、ハグとか。初子は俺とはしたくないか?」

ストレート且つ無邪気に尋ねてくるので、私はいつも返答に困ってしまう。精一杯平静を装い、答える。

「もったいないお言葉です。私は、部下ですので」
「でもなあ、初子との結婚が明らかになったから、俺はもうおおっぴらに女性と食事にも行けない身なんだよ」

肩をすくめ、困ったなあという顔を作って見せる連さん。
私は知っている。彼は私の反応を見ながらこういう態度を取っている。

「恐れながら、……密かにお会いになりたい女性はいらっしゃらないのですか?」

視線をそらして、ケーキを彼の前に置いた。

「いないんだよ。いつも女性の側から誘ってくれていたから。俺から会いたい女性はまったく」

連さんはあっけらかんとしている。

「それに、曲がりなりにも妻を娶った今、他の女性と交際するのは不誠実だろう」
「いえ、私たちの場合は事情が特殊ですので。私は気にしたりはいたしませんし」
「俺はするよ」
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