独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
屈託なく言うあたりがさすが御曹司。
私が住んでいるのはごくごく一般的な木造二階建てのアパートだ。確かに地方出身のあまり裕福でない大学生が借りていそうな佇まいだけど、そこまで“オンボロ”ではないと思う。
それに二十三区内でこの大手町のオフィスに徒歩で出勤できる立地にあるアパート。“オンボロ”でも、それなりの家賃がかかる。家賃は全額補助と言われているが、分相応なところに住んでおきたい。

「問題ありません」

私は当たり障りないよう答えた。色々説明するのは無駄だろうと思ったからだ。生きてきた世界が違いすぎる。

「考えたんだが俺の部屋の隣に住むのはどうだ? 少し前まで妹の撫子(なでしこ)が住んでいたんだ。今は婚約者と住んでいるから空いている」

さらりと言われ、私は真顔のまま言葉に詰まった。待ってほしい。お隣だなんて近居にもほどがある。
連さんの住まいは虎ノ門の複合施設近辺の高層マンションである。仕事のあと、車で送ったことがあるけれど、到底一般人の住める場所ではない。

「購入したときに改装して、中はドアひとつで繋がっているが、玄関は別だ。家賃はいらないし、便利だぞ。朝は俺が起こしてやろう」

本当にこの人は、何を言っているのだろう。その『善意で言ってます』の顔をやめてほしい。私のような庶民にそんなアッパークラスな住まいを斡旋しないでほしい。

「お気持ちだけ頂戴します」
「そうかそうか」

やっと出てきた私の返事に、連さんは明るく笑った。
ひと月一緒に仕事しても、彼のことがいまいちわからない。私の聞いていた噂では、文護院連という人は、もう少し厄介な人だったから。
< 6 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop