独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
それから、パーティーのほとんどの時間、私は連さんに付き従い挨拶をして回った。
社内的には結婚の話が出ていても、対外的に結婚の挨拶をするのは初めての機会となる。文治銀行の未来の頭取と目される連さんの結婚は、おそらく今日のパーティーでも大きな話題のひとつとなっただろう。

今日の主役である真緒さんのお父様にも挨拶をした。
顔立ちも口調も厳しさの漂う壮年の男性だ。撫子さんや真緒さんからケーキの話などを聞いていたので、てっきり穏やかな方かと思っていた。連さんの叔父にあたる文護院頭取とはまったく雰囲気の違う人である。

「連くんも結婚か。うちの真緒も、そろそろとは思っているんだがね」

そう言って、遠くで招待客と話している真緒さんを眺める。視線は厳しい。

「きみが文治の跡取りじゃなければ、真緒の婿に入ってもらったんだがな」

結婚の挨拶で、そんなことを言われると、私としては立場がない。こちらをろくに見もしないので、きっといち行員だった私に配慮をする気はないのだろう。

「真緒さんにはもっとふさわしい男性がいますよ。俺ではとてもとても」
「きみが昼行燈なのはよく知っているよ。馬鹿正直さと食えない性質が同居している。きみのような男にこそ、私の仕事を任せたいものだ」
「買いかぶりです。それに俺は新妻に骨抜きですので、しばらくは愛に生きる予定です」

そう言って、ふたりは笑い合った。私は横でひっそり微笑んでいるしかできない。
真緒さんのお父さまは、ものすごく連さんを買っているようだ。
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