独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「連」

挨拶を終え、場を離れると、真緒さんが近づいてきた。

「父に変なことを言われなかった? 連が結婚したって聞いて、私にも早く相手を見つけようとしてるみたい」
「真緒はひとり娘だものな。まあ、俺は真緒が好きな相手を選ぶべきだと思うけれど」
「それができれば苦労はしないわ。父さん、うるさいのよね」

真緒さんは肩を竦めて見せる。そうか、私たち庶民と違う点は結婚相手すら自由に選べないということだ。真緒さんの伴侶となれば、いずれはセンタールートロジスティクスの後継者だ。自由に相手を決められるはずがない。

「連の結婚は嬉しいけど、私はとばっちりだわ」
「おまえも年貢の納め時ってことだよ、真緒」
「言い方、感じ悪い」
「俺も恭に言われたんだよ」

ふとふたりを見つめる。
背の高い連さんと一生懸命見上げて喋る真緒さん。幼馴染の気安さからか、ふたりの間には親密な空気を感じる。
連さんの楽しそうな笑顔。真緒さんの愛らしい笑い声。

もし、このふたりが自由に相手を選ぶ権利があったとしたらどうだろう。ふたりはお互いを選んでいたのではないだろうか。

「初子、疲れたか?」

連さんに話しかけられ、私は思考の中から戻ってくる。真緒さんが微笑んだ。

「ケーキが振る舞われるわ。パーティーも終盤だから、もう少し頑張って」

姉のような優しい声に私は「はい」と微笑み返した。少しだけもやっと揺れた心を隠して。

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