独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
連さんが頷いた。

「そうか、それは嫌なことを聞いた。すまない。もう言わなくていいぞ」

あっさりとそう言う。これ以上詮索もする気がないようだ。
私は拍子抜けした。てっきり、細かく事情を聞かれるのではと身構えていたのに。

「ただ、初子が御母堂に似ていても似ていなくても、初子の顔は初子が二十六年間かけて作り上げた顔だ。真面目さも、頑固さも、勤勉さも現れている顔だ。誰のものでもない。初子自身のものだ」

知らず息を呑んでいた。この顔は、私自身の顔。

「俺は初子の内面の滲んだ顔を可愛らしいと思うから、これからも褒めるぞ。気を悪くするなよ」
「……はい」

驚いた。そんな言葉をもらえると思わなかった。
連さんの声が魔法のように心にしみわたる。たったひと言で、私が今日感じた所在なく苦しい気持ちを融かしてしまった。

鏡を見たくなかった。化粧をはっきりとしたくなかった。
そこに母の面影を感じるから。この身体に母の血が流れていることを実感するから。

だけど、連さんの言葉にならえば、この顔はもう私の人生の顔なのだ。確かにそうだ。どんなに母の影を感じても、私はあの人ではないのだ。

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