独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
4.妻のガードを緩めたい
「同居、ですか」
「そうだ、同居」
ここは文治銀行支店長室。これから俺は融資先との会食で出かける。帰りは自分で帰るので、妻であり部下である初子は俺を送ったら本日の業務終了である。
そのタイミングで俺は、ここ数日考えていた提案を切り出した。
「今は隣室同士だが、結局お互い内扉はほぼ使っていない。つまりは生活が完全に別々だ」
初子は黙っている。おそらくは思っているだろう。生活は別々でも契約上問題ない、と。
「そこで内扉を解放し、開け放っておく。寝室はそのままでいいから、いつでもお互いの居住スペースに出入りできるようにするんだ」
「そ、その……メリットは……」
「ふたりで食事が取れる!」
笑って見せると、初子は答えに窮して唇をもぞもぞ動かしている。
初子としては、この近居結婚のまま、契約の任期を終えるつもりなのだろう。
甘いぞ、初子。そうはさせるか。
「どっちみち、最近は休日も一緒に食事をすることが多い。平日の朝食も、初子は俺におにぎりを握ってくれるじゃないか」
「あれは……毎日カフェだと飽きるのではないかと思いまして」
結婚からひと月半、最近の初子は自分の朝食のついでに俺におにぎりや味噌汁を差し入れてくれる。初子の地元の漬物や、惣菜も持ってきてくれる。
また今朝は、俺が誘ったのでカフェで一緒に朝食を取り、そろって出社した。行内でも、俺と初子の結婚は周知のことなので、俺が新妻と並んで出社するところを、皆笑顔で挨拶してくれた。