独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
その日、融資係の私は支店長室に呼ばれた。
代表取締役頭取である文護院士郎氏が仙台支店を訪れているのは知っていた。入店してきたときにその姿も見かけた。私は顧客対応中だったので、垣間見る程度だったけれど。

文護院頭取も、越野支店長と同じく、私たち家族によくしてくれたひとりだった。支店のいち行員とその家族に尽力してくれた頭取には、大恩があると言ってもいい。直接対面するのは一昨年の本社研修以来で、私は懐かしさと嬉しさを持って支店長室を訪れた。

『失礼します』

支店長室に入り、一礼する。

『梢初子くん、久しぶりだね』

ソファにかけた文護院頭取は親しげに声をかけてきた。優しげな面立ちで、大銀行である文治のトップとは思えない柔和な雰囲気を持った男性だ。
私は越野支店長の横に立ち、もう一度礼をした。

『ご無沙汰しております』
『まあまあ、顔をあげて。そこに座りなさい。仕事中にすまないね。今日は大事な話があるんだ』

促されるまま、頭取の前の席にかけた。

『入行から丸四年か。今年で五年目になったね。梢くん』
『はい、父ともどもお引き立ていただき、本当にありがたく思っております』
『はは、縁故採用じゃないよ。きみの筆記試験の成績を見たら、誰も文句は言えないさ。さらには、今日までの仕事ぶりも越野くんからよく聞いている。融資係になってから、リテール部門のトップ成績だそうじゃないか』
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