独占欲に目覚めた次期頭取は契約妻を愛し尽くす~書類上は夫婦ですが、この溺愛は想定外です~
「眠ってしまったか? 風邪を引くから、寝室に行くんだ」

なるべく平静を装い、胸元からも初子からも視線をずらして言う。
初子はまだ寝ぼけた様子でがばっと無造作に起き上がった。
そのときだ。初子のパジャマの前ボタンがいくつかはずれ、キャミソールが大きくずれる。おそらく寝ぼけていなければ、雑な動きはしなかったはずなのだ。結果的に、初子の胸の谷間が大幅に露出する。

「……っ!」

俺は不覚にも息を詰め、唇を噛みしめた。まるで童貞男子のような反応をしてしまった。
もっと慌てたのは初子だろう。自身の乱れた服装に、声も出ず、勢いよく前をかきあわせた。

「だ、大丈夫! 見えてない!」

そう言ったものの、これじゃ「ばっちり見えました」と白状しているようなものだ。

「お、おおおお見苦しいところを!」

初子は動揺から壮絶につっかえながら言う。顔どころか全身真っ赤だ。
可愛い。大事にしたいという想いと同時に、もう少し触れてみたいような欲求が湧いてくる。

「部屋まで、運ぼう」

自分でもいけないとは思った。しかし、言葉が勝手に口を突いて出た。初子が問い返すより先に、俺は初子の華奢な身体を横抱きに抱え上げていた。

「連さん!」

初子が驚愕の表情で俺を見る。構わず、寝室にしている部屋へ入った。同居とはいえ、ここまで踏み込むのは初めてだ。
初子の寝室は最低限のものしかない。チェストの上に父と妹、そして越野支店長と並んで映った写真が飾られてあった。
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