君とあの丘まで
君とあの丘まで
 ピリ、と冷たい空気が体をかすめる。前方から坂の下に流れ込む空気は冷えきっていて、一層それを感じるのは手袋をしてるのに冷たい手だった。晒された足は既に赤く、スカートが当たる度に少し痛みを感じる。
 これで毎日の登校が嫌いにならない学生がいるだろうか。いや、いない筈だ。誰もが丘の上にある学校を疎ましく思っているに違いない。市川夏菜もその一人だ。
 夏菜は特に急ぎもせずに流れに任せ歩く。
 周りの生徒達は遅刻だ、なんだと歩く速さを上げていった。
 今更、遅いと冷めきった目で見ていた夏菜は後ろからくる衝撃に耐えきれずに前につんのめった。背中に確かに当たった何かは具体的には分からないが、対して固くない布の様な物だ。
 大袈裟に背中を摩り、後ろを振り向くと自転車に乗った彼がいた。

「遅刻ですよ、先輩!」

 夏菜を急かすその表情はどこか楽し気で本気で急いで無いのが窺えた。
 自転車を降りて自分で投げた小さい鞄を取ると、乱暴に籠の中に戻す。彼はまた自転車に股がり後ろを見ながら顎をクイッと動かした。なかば誘導された夏菜は大人しく自転車の後ろに乗る。
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