『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
ジャマルのお腹を蹴り急いで向かうも、間に合いそうもない。
 周りではまだ戦いは続いており、誰も救援に向かえないでいた。

「どうしよう……」

『大丈夫、任せて』

 ソマリの声が聞こえてくると、ふわっと背後から優しい風が背中を押すような感じで吹いてくる。
 すると、ジャマルの速度もあがり一気に間合いがつめられていく、この風体感以上に強い⁉ 砂塵が舞うことなく、私たちをまっすぐ彼の元へ誘ってくれる。

「させない‼」

 私はサーベルを構えながら荷駄に乗りあがろうとしている盗賊の背後から斬りかかる。

「ぐ、ぐふぁっ!」

 突然のことに振り返ることもできなかった敵は、力なくゼイニに寄り掛かるようにこと切れていく。
 何が起きたのか理解できていないのか、瞳をウルウルとさせながら私を見つめてくる彼、ジャマルの上から無事を確認すると他の人を助けるために向かっていった。

「がっは⁉」

 ファルスさんが一人倒すと戦局が一気に変わる。

「っち! 撤退だ! 撤退開始!」

 ホホホッ! っと、声をあげながら盗賊たちは一気に元来た道を戻っていく。
 あまりにも引き際が鮮やか過ぎた。 私たちはしばらくの間呆然と立ち尽くすしかなく、あたりは静けさに包まれている。

「くっ! あいつら……」

 ファルス隊長が声を発し、隊列を整えてはじめる。
 私も戻ろうとしたとき、ふと眼下に先ほどまで闘っていた人の亡骸を見つけた。
 私の覚悟はきっとこれからも多くの人を傷つけていくのかもしれない……本当にそれでいいの? 寝る前に考えたこともあったけれど、何度目を閉じても揺るがない心が必要であると感じた。

「ごめんなさい、でも、私は止まれないの」

 この世界で第二の人生を授かり、今まで人形として暮らしてきたが、今は違う。
 私は私であり、意志をもって行動している。

「レイナ様! 大丈夫ですか⁉」

 隊員たちが駆け寄ってきて私の安否を気遣ってくれた。
 笑顔で答えると全員がホッとしてくれ、ファルスさんも後から合流する。

「レイナ様、お気づきですか?」

「敵が変だってこと?」

 コクリと頷く彼の眼差しが真剣で、事の重大さが理解できる。

「初陣のレイナ様でもお気づきになったということは、これは相当の手練れです。おそらく教王国の正規兵で間違いないでしょう、装備は盗賊に似させておりますが」

 敵の武器を見せてくれたが、刃こぼれが非常に少なくよく手入れされた武器に清潔感のある身なりは、いくら賊に似せても違和感を感じた。
 
「それって、やっぱり私を狙ってきているってことかしら?」

 ボソリと呟く、こちらも人が亡くなっている。
 敵と闘っているとき、相手は私を当たりくじだと表現した。
 だとすると、私を狙っていた可能性が非常に高く、皆を危険なめに合わせてしまっている。

「それは無いでしょう、ついでにレイナ様を亡き者にする程度かと、敵はスキができたとき真っすぐに荷駄に向かいました。本命は荷駄隊でしょう。おそらく国王側が本格的に我々を掃討する作戦にでたのかもしれません、まだ大規模な軍は動いておりませんがね」

 きっぱりと否定してくるファルスにみんなが頷く。

「そもそも、俺たちは危険を承知で反政府運動をしているんですぜ? 今までが平和過ぎただけで、本来はもっと早く争いは起きていたんですよ、たまたまですからレイナ様は気を落とさずに前を向いていてくだせぇ」

 私の隣にいる男性が声を掛けてくれた。
 ありがとう……そうよね、うん、ごめんなさい。 これからもっと酷い道が待っているというのに、落ち込んでなんていられない。

「ありがとう、任務を遂行しましょう」

「えぇ、そうです。それがレイナ様であられます」

 亡くなった仲間の遺体を丁寧に布で包み、埋葬すると私たちは動き出していく。
 進むしかない、前に前にと、荷駄隊の商人たちはまだ恐怖が残っているのか皆怯えていた。
 その中、ゼイニが私の前に来るとなにか呟いて戻っていった。

「す、すまなかった」

「え?」

 あまりにも小さい声のため、何を言っていたのか聞き取れなかったが、先ほどまで彼から感じていた棘のような雰囲気は無くなっているように思える。
 荷駄隊は王都を目指して歩みを再開した。
 だけど、なんだろう……凄くまだ違和感が残っている。

『レイナも段々と敏感になってきわね』
「ソマリはわかるの?」
『んっとね、なんとなくね』

 それ以降返事はしてくれなかった。
 もったいぶらないで教えてほしかったが、今は目の前の任務に集中するしかない。

 それから、しばらく旅は続きあれ以降襲撃も無く無事に私たちは王都の近くまで荷駄を届けることができた。

「よっし! ご苦労であった。この度は同胞も散ったが我らの活動が世界を救うと信じ歩み続けるぞ!」

「「「おおおお!」」」

 これからは別の人たちが内部まで案内してくれる。
 もう少しであの壁で囲まれた世界が見えてくるのかと思うと、それ以上進みたい気持ちにはならなかった。

「お、おい」

「え?」

 話しかけられ、後ろを振り向くとそこにはゼニスが立っている。
 なぜかモジモジとしており、何か後ろに隠していた。

「何かしら?」

 襲撃以降の会話は無かったけれど、視線はときおり感じていたので、何か企んでいるのは知っていた。

「こ、これをやるよ」

 彼が後ろに隠していたのを私に差し出してくる。
 
「これって?」

 小さな真珠のように綺麗な球体が飾られたイヤリング、キラリと砂漠を照らす太陽が反射し私の目を刺激してきた。
 
「金は要らないって言っていたが、これは助けてくれたお礼だ……そ、その」

 なんて素直じゃない人だろうか、確かにファルスの言う通り一癖も二癖もある人物なのは間違いないけれど、根本は悪い人ではないのかもしれない。
 私はそれを受け取ると、今しているイヤリングを外し、貰ったばかりのをつけてみる。

「ありがとう、似合うかしら?」

 私はフードを脱ぐと、イヤリングが見えるように彼に見せた。
 すると、なぜか急に顔が紅くなっていく、もしかして熱中症? ちょっと気になり近づくと一歩後ろにさがってしまう。

「ど、どうしたのよ?」

「う! うるさい‼」

 ばっと、勢いよく背中を見せると荷駄隊へ戻っていく。
 変なの、でもこれはセンスが良いかもしれない。
 もらったイヤリングに手を当てて撫ででみるが、小さい感じで品がありそれでいてとても可愛らしかった。
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