『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
次の日から、本格的な作業が進められていく。
陣頭指揮を担当するのは、意外にもゼイニさんだった。
「ほらほら! 動かすぞ! 丁寧にな」
イルルヤンカシュの亡骸を村まで運んでいく。
私の旗にはさっそく一つ加わり、牙に穴があけられ紐が通され旗に結ばれている。
「誉ですな」
「まったく、見た目と違って武勇伝ばかりじゃねぇかよ」
ラバルナとファルスさんにからかわれてしまうが、私だって本来ならこんな荒っぽいことなどしたくない。
そして、もっと静かに眠らせてあげたかったけれど、貴重な鱗などを今後役立てたいと言われてしまった。
「ちゃんと、丁寧に弔ってよね」
「あぁ、もちろんだ必要なモノが手に入ったら必ず」
「そのときは私も呼んで」
止めをさしたのは自分、だから最後までしっかりと見届けたい。
運搬はゼイニさんに任せ、村で待機していた部隊と代わり私たちは帰還していく。
本当は昨日のうちに帰りたかったけれど、誰もその場を動こうとはしなかった。
本当に疲れた……もう動かない。
部屋に戻ると、そのまま倒れこんでしまう。 少し熱もあるのか、視界がぼやけてきた。
『レイナ、お疲れ様。頑張ったわね凄い凄い』
「ありがとう、でもソマリが一緒だったからよ」
優しく頭を撫でられた気がする。
村人たちは私たちの報せを聞いて大いに喜んでくれたが、それに浸る余裕はなく、私たちは床についた。
その日の夜になるまで、目覚めることなく眠ってしまう。 外が騒がしいと思い目をあけると広場から歌や音楽が聴こえてくる。
「うわぁ……素敵」
ドアをあけて広場に行ってみると、人々が楽しそうに舞い踊っている。
陽気な音楽が流れ、飲み食いが盛んにおこなわれていた。
私は遠目からそれを見つめ、リズムにあわせて指をタンタンと動かしていると、背後に人の気配を感じる。
「疲れはどうだ?」
「まだ完全には抜けないわね、でも、皆が喜んでくれているのを見ると素直に嬉しいわね」
「そうだな、この世界は暗いがその中に光を見出そうとするのは人として当たり前なのかもしれないな」
この笑顔を私たちは救えた。
これからも続いていく営みの炎が潰えることはなくなり、また新しい歴史が刻まれていく。
「しかし、あんな武器や荷駄を考えるなんて……やはり博識は違うな」
「うん? あぁ、ちょっとした思い付きよ。別に博識とかっていうほどじゃないから」
私の隣に腰をおろして、二人で広場の光景を見る。
そもそも、この国は大きな戦争を殆ど経験したことがない。 聖女教の名のもとに教王国が統治するようになり、争う考えは無くなり小さな盗賊などや今回のような怪物相手に戦う正規兵は必要である。
でも、武器の発展は殆どないと言っても過言でない。
だから、私が提案した武器などを考える必要がないのだ。
イルルヤンカシュのような巨大な生物だって、殆ど現れないのだからそのためだけに整えるようなことはしてこない。
「さて、戻ろうかしら」
「どうだ? 一杯やらないか?」
「あら珍しいじゃない、でも遠慮しとくわね私まだ飲める年齢じゃないので」
「?」
クスっと笑って部屋に戻っていく。
この世界では私は立派な大人で、お酒も飲めるのだけど、レイナは元居た世界ではまだ未成年者だったので断りを入れた。
軽く食事を済ませ、もう一度横になる。
まだ疲れているのか、眠気がすぐに訪れてきた。
***
次のは、村人たちの興奮の声が村中を包んでいた。
こうも騒がしいのは、単純に人が増えたことも理由の一つだろう。
「見ろよ! あれが怪物だぞ」
「ママ、見てきていい?」
イルルヤンカシュが運ばれてきた。
ゼイニさんたちが頑張って運んできてくれた伝説の亡骸を一目見ようと村の入り口には人々が集まっている。
「昨日の今日でみんな凄く元気ね」
人は強い、だからこんな厳しい環境の砂漠でも生活していける。
単純にこれは凄いことだと思う。
「レイナ起きているか」
ドアの向こうからラバルナの声が聞こえてきた。
「えぇ、何かあったの?」
「いや、ゼイニがヘトヘトなこと以外はとくにないが、ちょっと知恵を借りたくてな」
私は真新しいフードを羽織ると、外にでる。
疲れた顔の彼が私を待っており、一緒に来てくれと告げられる。
「寝ていないの?」
「誰かがやらなくちゃな」
「倒れられたら困るからほどほどにね」
「あぁ、わかっているよ」
村にはイルルヤンカシュが運び入れられ、職人たちが我先にと巨体を観察したり触ったりしている。
この暑さだ、腐敗するスピードも速い可能性があるので、早急に必要な素材を集める作業が開始された。
村の中心部に位置するラバルナの家に到着すると、今度はジャマル隊の面々ではなく職人さんたちが集まっている。
「急に集まってくれて感謝する。今後の村についてだが……」
大きくなった村、この規模に対しオアシスの水源量が足りていないことを伝えると、すぐに他のオアシスから水を運ぶ案が出されたが、非効率すぎると言われてしまう。
水路を構築するアイディアも出たが、現実味が無くかなりの期間が必要である。
「でも、水路は後々つくるとしても……この村を起点にいくつかのオアシスを統治していくのがよいかもしれませんね」
「そうね、自治は各々に任せて兵や物資は協力していくのが良いと思うの、小さな国みたいじゃない?」
「そうだな、当面の危機は去ったから一度戻ってもらおう、ただし、今後のことを考えて間接的に関わることになるのか? いや、もっと直接?」
「大丈夫よ。独裁的なことをしないかぎり、私たちについてきてくれると思うわ」
ああでもない、こうでもないと職人さんたちと意見を交えながら今後の村の運営を考えていく。
こうなると、別の村からも代表者を選んでもらい、議会のような運営が必要になってくる。
「いよいよね」
「何か言ったか?」
「ようやく、位置についた感じがするわ」
「確かに、俺にとってはかなり長かった気がするが、レイナが来てから早いな……」
とりあえず、四つの村に分かれ総合統治は私たちの村が行うことになり、連携もより密になって兵の訓練も行われることになった。
これにより、小さくではあるが国家という概念が立ち上がったのを私は感じていた。
陣頭指揮を担当するのは、意外にもゼイニさんだった。
「ほらほら! 動かすぞ! 丁寧にな」
イルルヤンカシュの亡骸を村まで運んでいく。
私の旗にはさっそく一つ加わり、牙に穴があけられ紐が通され旗に結ばれている。
「誉ですな」
「まったく、見た目と違って武勇伝ばかりじゃねぇかよ」
ラバルナとファルスさんにからかわれてしまうが、私だって本来ならこんな荒っぽいことなどしたくない。
そして、もっと静かに眠らせてあげたかったけれど、貴重な鱗などを今後役立てたいと言われてしまった。
「ちゃんと、丁寧に弔ってよね」
「あぁ、もちろんだ必要なモノが手に入ったら必ず」
「そのときは私も呼んで」
止めをさしたのは自分、だから最後までしっかりと見届けたい。
運搬はゼイニさんに任せ、村で待機していた部隊と代わり私たちは帰還していく。
本当は昨日のうちに帰りたかったけれど、誰もその場を動こうとはしなかった。
本当に疲れた……もう動かない。
部屋に戻ると、そのまま倒れこんでしまう。 少し熱もあるのか、視界がぼやけてきた。
『レイナ、お疲れ様。頑張ったわね凄い凄い』
「ありがとう、でもソマリが一緒だったからよ」
優しく頭を撫でられた気がする。
村人たちは私たちの報せを聞いて大いに喜んでくれたが、それに浸る余裕はなく、私たちは床についた。
その日の夜になるまで、目覚めることなく眠ってしまう。 外が騒がしいと思い目をあけると広場から歌や音楽が聴こえてくる。
「うわぁ……素敵」
ドアをあけて広場に行ってみると、人々が楽しそうに舞い踊っている。
陽気な音楽が流れ、飲み食いが盛んにおこなわれていた。
私は遠目からそれを見つめ、リズムにあわせて指をタンタンと動かしていると、背後に人の気配を感じる。
「疲れはどうだ?」
「まだ完全には抜けないわね、でも、皆が喜んでくれているのを見ると素直に嬉しいわね」
「そうだな、この世界は暗いがその中に光を見出そうとするのは人として当たり前なのかもしれないな」
この笑顔を私たちは救えた。
これからも続いていく営みの炎が潰えることはなくなり、また新しい歴史が刻まれていく。
「しかし、あんな武器や荷駄を考えるなんて……やはり博識は違うな」
「うん? あぁ、ちょっとした思い付きよ。別に博識とかっていうほどじゃないから」
私の隣に腰をおろして、二人で広場の光景を見る。
そもそも、この国は大きな戦争を殆ど経験したことがない。 聖女教の名のもとに教王国が統治するようになり、争う考えは無くなり小さな盗賊などや今回のような怪物相手に戦う正規兵は必要である。
でも、武器の発展は殆どないと言っても過言でない。
だから、私が提案した武器などを考える必要がないのだ。
イルルヤンカシュのような巨大な生物だって、殆ど現れないのだからそのためだけに整えるようなことはしてこない。
「さて、戻ろうかしら」
「どうだ? 一杯やらないか?」
「あら珍しいじゃない、でも遠慮しとくわね私まだ飲める年齢じゃないので」
「?」
クスっと笑って部屋に戻っていく。
この世界では私は立派な大人で、お酒も飲めるのだけど、レイナは元居た世界ではまだ未成年者だったので断りを入れた。
軽く食事を済ませ、もう一度横になる。
まだ疲れているのか、眠気がすぐに訪れてきた。
***
次のは、村人たちの興奮の声が村中を包んでいた。
こうも騒がしいのは、単純に人が増えたことも理由の一つだろう。
「見ろよ! あれが怪物だぞ」
「ママ、見てきていい?」
イルルヤンカシュが運ばれてきた。
ゼイニさんたちが頑張って運んできてくれた伝説の亡骸を一目見ようと村の入り口には人々が集まっている。
「昨日の今日でみんな凄く元気ね」
人は強い、だからこんな厳しい環境の砂漠でも生活していける。
単純にこれは凄いことだと思う。
「レイナ起きているか」
ドアの向こうからラバルナの声が聞こえてきた。
「えぇ、何かあったの?」
「いや、ゼイニがヘトヘトなこと以外はとくにないが、ちょっと知恵を借りたくてな」
私は真新しいフードを羽織ると、外にでる。
疲れた顔の彼が私を待っており、一緒に来てくれと告げられる。
「寝ていないの?」
「誰かがやらなくちゃな」
「倒れられたら困るからほどほどにね」
「あぁ、わかっているよ」
村にはイルルヤンカシュが運び入れられ、職人たちが我先にと巨体を観察したり触ったりしている。
この暑さだ、腐敗するスピードも速い可能性があるので、早急に必要な素材を集める作業が開始された。
村の中心部に位置するラバルナの家に到着すると、今度はジャマル隊の面々ではなく職人さんたちが集まっている。
「急に集まってくれて感謝する。今後の村についてだが……」
大きくなった村、この規模に対しオアシスの水源量が足りていないことを伝えると、すぐに他のオアシスから水を運ぶ案が出されたが、非効率すぎると言われてしまう。
水路を構築するアイディアも出たが、現実味が無くかなりの期間が必要である。
「でも、水路は後々つくるとしても……この村を起点にいくつかのオアシスを統治していくのがよいかもしれませんね」
「そうね、自治は各々に任せて兵や物資は協力していくのが良いと思うの、小さな国みたいじゃない?」
「そうだな、当面の危機は去ったから一度戻ってもらおう、ただし、今後のことを考えて間接的に関わることになるのか? いや、もっと直接?」
「大丈夫よ。独裁的なことをしないかぎり、私たちについてきてくれると思うわ」
ああでもない、こうでもないと職人さんたちと意見を交えながら今後の村の運営を考えていく。
こうなると、別の村からも代表者を選んでもらい、議会のような運営が必要になってくる。
「いよいよね」
「何か言ったか?」
「ようやく、位置についた感じがするわ」
「確かに、俺にとってはかなり長かった気がするが、レイナが来てから早いな……」
とりあえず、四つの村に分かれ総合統治は私たちの村が行うことになり、連携もより密になって兵の訓練も行われることになった。
これにより、小さくではあるが国家という概念が立ち上がったのを私は感じていた。