『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
「あれは呪われた水だ……」

 不穏な言葉に一気に緊張感が全身にはしる。
 
「呪われた? どうして?」

 僅かに残ったお酒を一気に飲み干すと、静かに目を閉じて語りだしていく。

「この世界がまだ木々が生い茂っていたと言われる時代、つまり神話の時代だ」

 あのがあった場所は、イフリートと呼ばれる魔人が住んでおりこの地域を支配していたそうだ。
 しかし、力を持て余した魔人はついに、支配地を離れて人間に干渉をしてしまう。
 いや、人間が先に干渉したのかもしれない……それは今となっては伝承という形でしか残っていない。

「簡単に説明すると、イフリートと人間の戦争が始まったわけだ」

 イフリートはその力と配下の魔人たちを率い、人間側を蹂躙していくも、数と知恵で抵抗を続けていた人類が泉の付近まで追い詰めた。

「しかし、相手は魔人の頭……巨大な存在に封じ込めることしかできなかったそうだ」

「封じ込める?」

「あぁ、そうだ。あの泉は聖なる水でできており、あの中にはイフリートがまだ眠っていると伝えられている」

 それで教王国の正規軍が今でも見張りをたてて泉を警護しているそうだ。
 だが、誰も調べたわけでもない。 ただ、怖い……畏怖、恐怖。 それが今でも残っているなんて信じられない。

「一説によれば、この世界を砂漠に変えたのがそのイフリートとの大戦だったと伝えられている」

「そんな存在が眠っている場所だから、誰も手をださないの?」

 コクリと頷く、なるほど……確かにもし借りに何もない可能性もあるけれど、わざわざ正規軍と真正面から戦う必要はないだろう。
 かなりの犠牲も出てしまうだろうし、でもそんな規模の泉が手に入るならぃ一気に水源の問題は解決しそうなのに。

「水か、この世界は乏しい。あまりにも何もなさすぎる。少ない果実や肉を求めて彷徨い、ほとんどが王都へと吸収されてしまう」
 
 自分たちがその日を過ごすので精一杯、これがこの世界の常識であった。

「これでは何も変わらない、変われない。だから俺が変えてみせる! なんて、生意気なことを言っていたが……」

「生意気じゃないと私は思うわ、だってそういった志を持つことすらできない教王国の支配体制に抗うって決めたんでしょ? そう思って行動しているじゃない」

「確かに、こんなちっぽけな俺でもやれると思うか?」

 いつもの強気な感じはしない。
 お酒を飲んだから? 不安そうな瞳が私を見つめてくる。
 
「やれるか? じゃないでしょ、やるのよ」

 立ち上がって、部屋を出ていこうとするとラバルナが小さく鼻歌を歌い始めた。
 優しく扉をしめると、夜の静けさを含んだ砂の上を歩いていく。
 夜空の星の数を数えながら部屋まで行くも、入ることはしない。
 
「もったいないじゃない」

 腰にさげた剣に手を添えて、村の外へと向かう。
 出入口で兵士が私をみつけて声をかけてくれた。

「レイナ様! 夜ですぞ!」

「いいの! ちょっとだけだから」

 少し困った顔をしている。
 目線で周りの仲間と合図をとりあって、一人が急いで物見から降りてくると私の後ろについた。

「お許しを」

 本当は一人で過ごしたかったが、私を心配してくれているのはわかる。
 だから、無下にはできない。
 それに、気を使ってくれているのか随分と離れて気配をなるべく消してくれていた。

「ありがとう」

 小声でつぶやくと、村を出て少しした場所へ到着するとゴロリと寝そべって空を見上げる。

「綺麗……」

 村の灯りでは夜空を消し去るのは不可能だった。
 だけど、少し離れその灯りすらも無くなると、さらに星は輝きを増していく。

「凄いわね、本当に凄い」
『あら、レイナって星で感動しちゃうの?』

「私が以前住んでいた世界は、こんな夜空は見られなかったの」
『そうなの? それって、ずっと雲で覆われていたとか? 雨ばかりの世界だったの?』

 珍しく口数の多いソマリ、そう言えば私が来る前の世界について説明したことなど殆どなかったのを思い出した。

「ねぇ、ソマリ今日は夜更かしに付き合ってくれる?」

 私の提案に対し、彼女は喜んだようなきがする。
 
『しょうがないわねぇ、良いわよ。ドンドン聞かせてちょうだい』

 私は心のなかでクスっと笑うと、想い出を語りだしていく。
 淡白な人生だと当時は思っていたが、話しているうちに想像以上に話せる内容があることにびっくりした。
 ほんの些細なことでも、ソマリは興味を示してくれる。

『……』

「? どうかしたの?」

 今までペチャクチャと楽しく会話をしていたのに、急に黙ってしまう。
 寝たのかな? なんて思ったが、彼女は寝ないだろう。

『レイナ、気を付けてナニか来るわ』

「え⁉」

 ガバっと起き上がって剣に手を添えると、私を見守っていた兵士も駆け寄ってくる。

「ど、どうかなさいましたか⁉」

「わからない、でも嫌な気配がするの……」

 男性は剣を抜いて構え、私の背後を護るような位置に立ってくれた。
 なによ急に、楽しく女子会的なことをしていたのに、いったい何が近寄っているというのだろうか?
 星と月の明りが照らし出している砂漠の奥に、わずかに動く影をとらえる。
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