『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
彼女は、本の中で描かれているような容姿はしていなかった。
イメージとしては、貧しいながらも利発な印象のある感じであったが、目の前に現れたのは、細く、触れると折れてしまいそなほどである。
しかし、どこか力強さをあわせた雰囲気があった。
「ソ、ソマリなの?」
「えぇ、そうよ。突然、ごめんなさいね。今日はお願いがあってきたの、聞いていただける?」
トントンと、左手でベッドを優しく叩き、私が座るように促してくる。
そっと腰を落ち着けると、ニッコリと微笑み静かに語りだした。
「あのね、私が聖女として描かれたのは、死んでから何年も経過してからなの」
「え? じゃぁこれは?」
手に持っている本を指さすと、クスクスと笑い出した。
「それは、私を都合のよい感じに仕立て上げたって感じかな? 最初は、本当に私と数人の仲間だけで人々を助けていたの、小さな村を救うだけで何年もかかってしまった。でも、次第に噂が広がり、病気で最期を迎えるあたりには、多くの仲間がいたの」
病気で亡くなったの? それは、知らない。
元々、体が丈夫ではないのだろうか? それとも別の理由があるのかもしれない。
「多くの人が悲しんでくれた。それから、しばらくは私の意思を受け継いだ仲間たちが世界各地に散らばって、活動を続けてくれたけれど、いつの時代も甘い蜜を吸いたがる人はいるものね」
彼女はこう説明してくれた。
信者の数が増えるにつれ、聖女の力や噂を利用し悪だくみをする人たちが、最終的にお金や人員に余裕のある派閥が勝ち始め、今では聖女というのは看板だけで、実質的には何も活動していない組織になっている。
「それでね、もうこの世界は私を必要としていないの」
「それって、どういう意味?」
「そのままよ。私が象徴のままでは荒廃していく一方で、良い方向には絶対向かいない。それよりも、多くの人々が苦しんでしまう。だから、この世界には、新たな光が必要なのです」
何を言っているのだろうか? そんな真剣な瞳で私を見つめないで!
「お願い、レイナ――私の代わりに世界を助けて、あなたも見たでしょ? あれが、現実で私の意思ではない。あなたは特別、きっとできる……」
「ちょ、ちょっと待って! いきなり意味のわからないことを言わないで!」
「本当に、大丈夫よ。 自分が、皆が喜ぶ世界を目指してください。今までの聖女はダメ、みんな心が汚れていたの、だから、私は別の世界から招いた」
だから、私がこの世界に? 嘘、なんで? どうしろっていうの⁉
「ねぇ! 私に、そんなことできない! 無理よ‼」
「うんん、無理じゃないわ、だって、私だってできたのですから」
私はソマリではない、ただのOLで普通の人だったのだから。
今までこの世界の事を全然知らない籠の鳥なのに、人を救えなんて。
「安心して、あなたの傍には私が付いていますよ……」
そう言って、また霧のようになると、ふっと私の目の前から消えてしまいそうになるが、すっと私の体にその霧が入り込んだように思えた。
「そ、そんな、急にそんなことを言われても」
困惑と不安だけが、私を包み込み、しばらく動くことができなかった。
おもわず涙がこぼれだしそうになるのを私は無理やりとめて、小さな窓まで歩いていく。
全部開けることのできない、狭い隙間から新鮮な空気を綺麗な月の光が私の顔の半分を照らしていく。
「わからない、私はどうしたいの?」
自分で自分を問うても、答えてくれるわけはなく、ただ静寂だけが包み込んでいった。
だけど、ソマリは少し気になることを言っていた。
彼女はいったいどうやって当時の村や人々を助けたのだろうか? 特別な魔法とか? それとも別の何か? それは経典にも書かれていない秘密の部分なのかもしれない。
「でも、あなたはやっていたのね」
死ぬ間際まで必死に頑張ったのだろう、それで多くの仲間ができたが、裏で暗躍する存在に気が付かなったのか、阻止できなかったのか、どちらにしても、もう少しソマリが長く生きてくれていたらきっとこの世界は今よりも素敵になっていた可能性がある。
でも、私にはそんな力はないの……明日で私の生活は終わりを告げて、また違う世界へと向かってしまう。
「ごめんなさい、あなたの気持ちに応えられなくて」
そう、いつもそう、予め敷かれたレールの上を歩んでいくのが一番安全で確実なことだと、以前の世界にいたときから教わってきた。
人を救う仕事に憧れたときもあったけれど、親に反対されてしまう。
公務員になれと言われ、受けたが失敗したときのあの顔は忘れない、その後受けた会社で運よく拾っていただき、それから続けていたが、親の顔が段々と見れなくなり一人暮らしを始めてしまう。
「そんな私じゃ無理よ」
バタンッ。
窓を少し乱雑に閉めると、ベッドに横になってしまう。
この空が明るくなると私はまた別の人物になってしまうような気がして、恐怖を感じてしまった。
「でも、生きていけるだけ」
この息苦しい世界でも、生きていけるだけマシなのかもしれない。
聖女の仕事でなんとかこの世界を少しでもマシにできないだろうか? なんて、夢のようなことを考えているうちに、初めて外の世界へ出たことで疲れたのか、私はいつの間にか夢の世界へと入り込んでいた。
『大丈夫よレイナ、あなたは強くて美しい。だから私の力も使って……』
誰かが頭を撫ででくれる気がする。
温かい、そして安心する……。
イメージとしては、貧しいながらも利発な印象のある感じであったが、目の前に現れたのは、細く、触れると折れてしまいそなほどである。
しかし、どこか力強さをあわせた雰囲気があった。
「ソ、ソマリなの?」
「えぇ、そうよ。突然、ごめんなさいね。今日はお願いがあってきたの、聞いていただける?」
トントンと、左手でベッドを優しく叩き、私が座るように促してくる。
そっと腰を落ち着けると、ニッコリと微笑み静かに語りだした。
「あのね、私が聖女として描かれたのは、死んでから何年も経過してからなの」
「え? じゃぁこれは?」
手に持っている本を指さすと、クスクスと笑い出した。
「それは、私を都合のよい感じに仕立て上げたって感じかな? 最初は、本当に私と数人の仲間だけで人々を助けていたの、小さな村を救うだけで何年もかかってしまった。でも、次第に噂が広がり、病気で最期を迎えるあたりには、多くの仲間がいたの」
病気で亡くなったの? それは、知らない。
元々、体が丈夫ではないのだろうか? それとも別の理由があるのかもしれない。
「多くの人が悲しんでくれた。それから、しばらくは私の意思を受け継いだ仲間たちが世界各地に散らばって、活動を続けてくれたけれど、いつの時代も甘い蜜を吸いたがる人はいるものね」
彼女はこう説明してくれた。
信者の数が増えるにつれ、聖女の力や噂を利用し悪だくみをする人たちが、最終的にお金や人員に余裕のある派閥が勝ち始め、今では聖女というのは看板だけで、実質的には何も活動していない組織になっている。
「それでね、もうこの世界は私を必要としていないの」
「それって、どういう意味?」
「そのままよ。私が象徴のままでは荒廃していく一方で、良い方向には絶対向かいない。それよりも、多くの人々が苦しんでしまう。だから、この世界には、新たな光が必要なのです」
何を言っているのだろうか? そんな真剣な瞳で私を見つめないで!
「お願い、レイナ――私の代わりに世界を助けて、あなたも見たでしょ? あれが、現実で私の意思ではない。あなたは特別、きっとできる……」
「ちょ、ちょっと待って! いきなり意味のわからないことを言わないで!」
「本当に、大丈夫よ。 自分が、皆が喜ぶ世界を目指してください。今までの聖女はダメ、みんな心が汚れていたの、だから、私は別の世界から招いた」
だから、私がこの世界に? 嘘、なんで? どうしろっていうの⁉
「ねぇ! 私に、そんなことできない! 無理よ‼」
「うんん、無理じゃないわ、だって、私だってできたのですから」
私はソマリではない、ただのOLで普通の人だったのだから。
今までこの世界の事を全然知らない籠の鳥なのに、人を救えなんて。
「安心して、あなたの傍には私が付いていますよ……」
そう言って、また霧のようになると、ふっと私の目の前から消えてしまいそうになるが、すっと私の体にその霧が入り込んだように思えた。
「そ、そんな、急にそんなことを言われても」
困惑と不安だけが、私を包み込み、しばらく動くことができなかった。
おもわず涙がこぼれだしそうになるのを私は無理やりとめて、小さな窓まで歩いていく。
全部開けることのできない、狭い隙間から新鮮な空気を綺麗な月の光が私の顔の半分を照らしていく。
「わからない、私はどうしたいの?」
自分で自分を問うても、答えてくれるわけはなく、ただ静寂だけが包み込んでいった。
だけど、ソマリは少し気になることを言っていた。
彼女はいったいどうやって当時の村や人々を助けたのだろうか? 特別な魔法とか? それとも別の何か? それは経典にも書かれていない秘密の部分なのかもしれない。
「でも、あなたはやっていたのね」
死ぬ間際まで必死に頑張ったのだろう、それで多くの仲間ができたが、裏で暗躍する存在に気が付かなったのか、阻止できなかったのか、どちらにしても、もう少しソマリが長く生きてくれていたらきっとこの世界は今よりも素敵になっていた可能性がある。
でも、私にはそんな力はないの……明日で私の生活は終わりを告げて、また違う世界へと向かってしまう。
「ごめんなさい、あなたの気持ちに応えられなくて」
そう、いつもそう、予め敷かれたレールの上を歩んでいくのが一番安全で確実なことだと、以前の世界にいたときから教わってきた。
人を救う仕事に憧れたときもあったけれど、親に反対されてしまう。
公務員になれと言われ、受けたが失敗したときのあの顔は忘れない、その後受けた会社で運よく拾っていただき、それから続けていたが、親の顔が段々と見れなくなり一人暮らしを始めてしまう。
「そんな私じゃ無理よ」
バタンッ。
窓を少し乱雑に閉めると、ベッドに横になってしまう。
この空が明るくなると私はまた別の人物になってしまうような気がして、恐怖を感じてしまった。
「でも、生きていけるだけ」
この息苦しい世界でも、生きていけるだけマシなのかもしれない。
聖女の仕事でなんとかこの世界を少しでもマシにできないだろうか? なんて、夢のようなことを考えているうちに、初めて外の世界へ出たことで疲れたのか、私はいつの間にか夢の世界へと入り込んでいた。
『大丈夫よレイナ、あなたは強くて美しい。だから私の力も使って……』
誰かが頭を撫ででくれる気がする。
温かい、そして安心する……。