『義賊の女王』-世界を救う聖女となる-
 空気に冷たさを混ざるような感じを背に受け、兵たちから報せが続々と届く。

「ラバルナ様、突撃を開始いたしました。最初は勢い強く敵を一気に最深部まで追い詰めましたが、抵抗激しくもう一歩のところで突破できておりません!」

「ありゃりゃ……レイナの言った通り、敵さんも中々やるねぇ」

 ゼイニさんが心配そうな顔になりながら呟く、確かに私が言ったように敵は死に物狂いで抵抗するだろう。
 だけど、それだけじゃない……あまりにも戦の展開が早すぎる。

「たぶん、敵は初めから最深部で決戦をという考えでしょう。ラバルナたちは一番奥へと逆に誘われてしまったね」

「? それってつまり……」

 間違いない、教王国軍は挟み撃ちをしてくるつもりだ。
 そのために、最深部で彼らを足止めして背後を襲うつもりなのだろう。

「でも、そうはさせない!」
 
 最後の物見の兵が戻ると、私たちにも一気に緊張感に包まれる。

「報告! 教王国兵数約百五十――! 東方より進軍中、まっすぐ泉に向かっております!!」

 来た。
 これを待っていたのだ。

「よっし! 行くわよ。月の輝きを遮る雲は私たちが薙ぎ払う!! 初代聖女の姿を背負い、一騎当千の働きを期待する」

「「るぁぁぁぁぁ――!!」」

 士気が高まると、動きだしていく。
 

***

「おらぁ!! 進め、こんなノロマだと泉の馬鹿たちだけで戦が終わっちまうぞ!」

 ゲラゲラと下品な笑い声が隊の中に広がっていく。
 先頭を走る男は、綺麗に揃えられた髭をさすりながら、なんて楽な仕事なのだろうと思っていた。

「しかし、敵が楽勝と思わせて実は逃げられない場所まで誘われていたなんて思いもしないだろうよ!!」

 急遽、王子から頼まれたときは嫌そうな素振りをみせていたが、よくよく考えてみれば楽に手柄を貰えると思うと悪い気はしない。
 日が暮れる前に終わらせて、王都で女でも抱こうと思っているのか下品な笑みを常に浮かべていた。

「かぁ、楽しみだねぇ。それにレイナって女も見た目だけは凄いらしいなぁ……どうせ殺されるんだから、少しぐらい味見したって問題ないだろうや」

 自分の下半身が熱を持ちはじめ、高ぶる気持ちを抑えつつ馬を進めていくと、ポツポツと頬に雨が当たり始める。

「はぁ? クソ、これからだってときによ」

 珍しい雨に気を取られ、空を見ると雨にまじり何かが飛んでくるのが見えた。

「?」

 段々と近づく飛翔体に目を凝らし、その正体が判明したとき彼は大声をあげる。

「!! て、敵襲! 矢だぁ!」

 盾を構えろ! そう言うはずだったが、その前に飛翔体は隊の中心部に落ちると馬に当たり、痛みで暴れ兵が落ちてしまう。
 騒然とする部隊、しかし、飛んできた矢が一本なわけがない。
 
「た、退避! 退避! く、クソがぁぁ――!!」

 空を埋め尽くす矢の雨、次々に兵と馬を襲っていく。
 歩兵は盾を構えて怯えながら下がっていき、騎馬隊は右往左往に散り始めてしまう。

「ぐぁぁぁぁ! い、痛えぇぇぇ!!」

 部隊を率いていた男の腕にも矢が命中すると、指揮系統が混乱し更に乱れていく。

「あ、あれはなんだ⁉」

 歩兵の一人が何かを発見したようだ。
 視線の先には砂丘の裏から多くの兵が現れる。
 旗印に初代聖女の姿とサボテンの花が描かれた美しい旗が、雨が降る砂漠を泳いでいた。


***

「初手は成功いたしました!」

 私は大きく頷くと、サーベルを構えて指示をだしはじめる。
 背後にはラバルナに協力はしていないが、教王国側にもついていない村々から集まってもらった兵が集まっていた。
 この人たちを説得するために時間がかかってしまったが、なんとか間に合った。

「我らはあの教王国の血筋には従いませんが、聖女の旗には従います!!」

 そういって、私についてきてくれる人たちには感謝しかない。

「ありがとう……私の旗に集まりし、戦士たちよ! 今こそ、その刃を抜き敵を仕留めよ。自分たちが築き上げた汚れた世界を自らの血をもって拭っていただこうではないか!」

 ジャマル隊が一斉に走り出し、その横を歩兵たちが駆けていく。
 大声を出し、サーベルと剣をかざしながら濡れた砂を踏み鳴らし彼らは敵を蹂躙しはじめる。

 
「く、くそがぁ! 敵がなんでこんなところに⁉」

「ぎゃぁぁ――!! う、腕ががぁ」

「狼狽えるな、陣形を整えろ! 相手はたかが砂漠のゴミども、我らの敵では――ッゲファ!」

 油断し、隊列を崩し逃げ惑う敵を包囲しながら徐々に距離を縮めていく。
 初手で勝敗は決していたので、あとは見守るだけだったが、泉の兵も挟み撃ちする側も相当油断して過ごしている。
 これは、癖になっているのだろう……常に過酷か環境な砂漠の民たちは平和ボケといった感覚は無くなるが、教王国側は違って外敵がほぼいない環境を何年も過ごしてきたので、今更緊張しながら過ごすのは無理なのだろう。

「おいおい、一方的だな……それに、これだけ仲間が集まるなんて、ラバルナもまだまだだねぇ、いやレイナが凄いのか」

 後ろで、ゼイニさんが何かブツブツ言っている。
 雨脚が強まってきており聞き取れない、今は目の前の戦況に集中しなければならなかった。
 
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